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トラップ 12

隠れ家でナツの話を俺は聞いた。 まず一つ。 男がナツを助けてくれたらしい。 「オレが助けた。オレが助けた、助けたんだぜ!!」 男が主張しまくっているので間違いない。 男は言わないことがあるだけで、嘘はつかない。 物凄く褒めて欲しいと要求していたので、俺は心から感謝した。 「ありがとう。本当にありがとう!!!お前、良い奴だな!!」 俺は座っていた男の髪をくしゃくしゃにして撫でた。 背が高いから立ち上がらないといけなかったが。 男がさらに要求するので、頭を抱きしめた。 頭にキスさえした。 この嫉妬の固まりみたいな男が。 本当は独占欲の固まりみたいな男が。 物凄く頑張ってナツを助けたのだ。 俺に褒められるためだけに。 こっそり殺す方法でも考えているんじゃないかと心配していたのに。 いろんな誘惑に打ち勝って、ナツをまもってくれたのだ。 俺のためだけに。 ちょっと後ろめたさがある。 そうさせてしまったことに。 この男は俺を所有しようとはしない。 俺を絶対に縛らない。 何故なら男は俺のモノになりたいからだ。 そのために凄まじい独占欲をおさえこんでいる。 俺が本気で女を抱きたいと言ってこの男の前で誰がを抱いたとしても、この男は止めないだろう。 いや、そんなこともちろんしないよ、もしもの話。 でも、だからこそ男は俺がそんな気にならないように、毎日健気に頑張っているのだ。 俺の身体をたらしこみ、快楽で縛り、何でも俺の望みを叶えることで。 「オレにしとけ、オレが一番いい」ということを俺に知らしめるためだけに。 まあ、実際たらしこまれて、毎晩鳴かされ、ほだされまくっているので男の思い通りなのだけど。 「ありがとう。でも、ちゃんと愛しているからな」 俺は言う。 ナツを、助けてくれて嬉しい。 でも、男に葛藤はあったに決まっていて。 でも、そうしたのだ。 だって、俺が喜ぶから。 だって、俺がナツが死んだら泣くから。 「オレはなんでもする」 男の自慢げな声が俺には切なくもあった。 俺は。 そこまでしてくれるからお前といるわけじゃないんだってことを、どうやってんわからせたらいいのかが。 まだ俺にはわからない。 ため息をつく俺にナツは難しすぎて、複雑すぎて理解できない難問みたいな視線を向けてきた。 ナツ、その目にある感情なに? とにかくナツは話を続けた。 「売られる子供達がまだいる。とじこめられている」 ナツが言った2つ目。 これは。 大問題だが、 いいことだ。 まだ売られていない子達がいる。 「警察に・・・」 言いかけてナツにさえ切られる。 「ダメだ。大元は捕まらない。証拠がいる。ユウタは未成年だし、言い逃れしてすぐに出てくる。ちゃんとした証拠が必要だし、何より、下っ端を切り捨ててまた連中は始める」 ナツは言いきった。 そんなことは、ドクターも言っていた。 ユウタの殺人の証拠だけでは、どうにもできないと。 セイヤを殺した証拠ではあってもカナを殺した証拠にはならないし、人身売買まではいかない、と。 ユウタにのめり込んたのは子供達の方だし、ユウタは無理やり売春させたわけではない。 子供達は気がついたら、ユウタ以外の人間関係を水から捨て去り、誰にも探されないようになっている。 売られてからも、ユウタを慕っている可能性さえあるのだと。 目の前で裏切られるたのに、それでもユウタを庇う可能性さえおると、 実行犯の男達は罰せられても、ユウタはすぐに出てくる。 また繰り返される。 子供達を操る天才なのだユウタは。 今のやり方じゃない、また別にのやり方で。 子供達を集めて売るだろう、と。 「殺さないのは承知してる。でも、単に警察じゃダメだ。それでは本当には終わらない」 ナツが言った。 それは。 ドクターもどう意見だった。 法の外にいる彼らだこらこそ、悪党の側にいる人間の言うことだからこそ、リアリティがあった。 「ユウタを嵌めないと。きっちりと。でも、早くしないと。子供達がどうされているのかわからないし」 ナツは言った。 これは。 ドクターに何か考えて貰わないと。 俺の頭じゃおいつかない。 俺が動くより先に、男がドクターに電話していた。 すぐに来るだろう。 「来い」 と男が言ったから。 いつだってそうなのだ。 ドクターでなければ可哀想に思っただろう。 気が付けば俺は男の膝の上に載せられていた。 もういい。 これは座椅子。 座椅子だから。 ナツの目の前だが諦める。 ここで嫌がったら、男はよけいにややこしくなる。 俺だって初恋の人の前でこんな風にされるのほ色々複雑なんだが、だが。 男の気持ちも大事なのだ。 「そいつ、犬に似てるってあたしが言ったら大喜びしてたぞ」 ナツはまた複雑な感情を視線に乗せてくる。 ナツ、なんなのその感情。 犬に似てる? まあ、確かに、みょうにダブルところはあるけど。 「オレは犬の代わりだよな」 男が嬉しそうに言ったので流石に俺もおどろいた。 喜んでいるのかよ!! いや、俺には犬はベットなんかではない、家族とはまた違う、魂のパートナーとでもいうべき存在だった。 だけど、人間にそれを理解して貰えるとは思ってない。 人間という種族は犬という種族を本当の意味では同等だと思っていないのは俺は理解しているので、俺と犬との関係を理解して貰おうとも思わなかった。 だが。 この男は。 喜んでいる。 自分は犬の代わりだと。 呆れて。 また切なくなって、そして、嬉しかった。 「オレはお前の一番近くにいるんだよな」 男の笑顔が。 燃えたつ炎ののたうつ顔なのに、男は子供みたいな無邪気な笑顔を見せたりする。 違う、犬とはまた違う お前はお前で、大事なんだと言いたかったけど。 それを言ったなら男が悲しむのもわかった。 犬が俺の魂の近くにいたことを一番理解しているのが、この男だった。 犬に会ったこともないくせに。 男は。 そうなりたいと渇望しているのだ。 本気で。 言っても、まだ伝わらないんだよな。 「お前はお前だ」ってのは。 だからあえて否定しなかった。 「近くにいるよ」 そうとだけ答えた。 それは嘘じゃなかった。 「俺は犬だ!!」 男は喜んで笑う。 ナツは俺と男を、あのわけのわからない感情がこもった目で見てた。 わかった。 ナツ。 それ、わかった。 見たことのない生き物を見てしまった時の目だな。 わかる。 気持ちは本当にわかる。 俺だって。 なんでこうなっているのかは分からないんだよ。 俺はナツへの説明は諦めることにした。 説明など。 できるわけがない。

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