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トラップ 13

色々作戦は考え直さないといけなくなったので、そこは全部ドクターに任せることにした。 いつものように呼び出されたドクターはぎゃあぎゃあ怒るかと思ったけれど、同じくナツの隠れ家にやってきた内藤の、 「子供達を助けてあげないと」 という呟きに俄然やる気を出した。 「そうだよね、早く助けてあげないとね」 うんうん、と頷きながら心ないことを言っている。 ドクターには売られる子供がどうなろうかなんてどうでもいいのだけど。 なんなら売りに出しててもおかしくない男なのだ。 ドクターがそうしないのは、「騙されたことに気づかせない」のが一番いい仕事のやり方だと思っているからだ。 騙されながらも、それでもユウタを信じようとしてしまう奴隷にさる子供達、そういう惨めな感じの仕事は気に入らないし、そこに半グレが入り込んでくるようなのも気に入らない ようは仕事のスタイルの問題なのだ。 だが、ドクターは内藤には誰よりも嘘をつく。 「内藤くん、オレがちゃんと子供達を救い出して見せるからね、そんなの許せないよね」 ドクターは嘘くさい正義感を、物凄いバレバレに表明していて、それは誰にでも嘘だとわかってしまうもので。 内藤がいると、心をもたない誰にも騙されたことさえ気付かせないはずの非情の詐欺師は、まったくもってダメダメだった 内藤は冷ややかな目でドクターを見つめるが、まあ、子供達の行方はドクターしだいなので、いつものように突き放しはしない。 それにドクターは無駄な勇気を得ていた。 「子ども達も助けたら、内藤君、オレのこと少しは好きになってくれる? 」 そんな哀れなことさえ言う始末だ。 内藤に限ってそれはない。 内藤はクズとゲスがキライなのだ。 ドクターは両方だからな。 「絶対ならない」 内藤はハッキリ言ったが、それでもドクターはよろこんだ。 無視されなかったから。 いつも虫の死骸見る目でしか見られてないからな。 「内藤君が喋ってくれた」 これだけで、ドクターはどこまでも頑張れるだろう。 お前の人間性のせいで好かれないのだから、仕方ないな、とは思うけど、哀れだとも思ってしまうよな。 まあ、自業自得だ。 とにかくやる気を出したドクターに作戦の立て直しと、無茶してひらいたナツの傷をみさせることにして、俺達は帰ることにした。 内藤とも別れる。 俺は男と帰るから。 内藤は俺の顔を見て言った。 「アイツのことは好きじゃない。でも。ちゃんとしてやるべきだ。一緒にいると決めたんなら」 その意味はわかった。 内藤はいつも正しい。 「わかった。ありがとう」 俺は内藤に感謝する。 内藤がいつも内藤であることに。 内藤は犬について、ナツについて、知った上で、男について言っている。 内藤は。 良く考えてから話す。 単なる思ったことを言ってるだけじゃない。 俺の親友は とてもかしこい男なのだ。 自転車で走り去る内藤を見送り振り返った。 男が俺の自転車を持って待:っていた。 俺達の家に帰るのもいい。 俺達はあそこで幸せに暮らしてる。 だけど。 「ホテル行こうぜ」 俺はストレートに言った。 家じゃ思い切りできないから。 いや、まあ、あれはアレでいいんだけど。 声殺しながらされんのも実は悪くない、てか、好き。 死ぬほど愛おしまれながら、俺を感じさせ、イカされるのが嫌なわけじゃないし、オレだって、男のデカいのを舐めたり、擦ったり、素股で一緒にイクのは好きなのだ。 毎日頭がおかしくなるようなセックスしてられないしな。 身体がもたないし。 でも。 今日は。 男に与えてやりたかった。 何も望まない。 俺にただ飼われたがっているこの男に。 愛されることさえ望まない男に。 気がつくと、自転車と一緒に担がれて、物凄いスピードで移動してた。 男が走る速度は。 人間の速度ではなかった。 「まっ待!!!」 待て、と言いかけたが、舌を噛むような衝撃に口を閉ざすしかなかった。 夜の街を自転車と男を担いだままはしる、半身が燃えた男。 あらたな都市怪談がうまれようとしていた。

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