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閑話2 内藤くんとドクター

ドクターはヘタレではない。 バレたら身体中を蜂の巣にされるような場所で嘘をついてみせたり、シラを切ってみせたことも1度2度ではない。 この手を血で汚さないことは信条にはしているし、荒事は嫌いだが、嘘を操り生きているからこそ、胆力は誰よりもあると思っていたいた。 怖いモノなどあるはずがない。 あの男? あれは別だ。 あれは違うから。 あれは・・・言ってはいけないことはこの世界にはある。 とにかく。 銃をつきつけられながらも、平然と嘘をつけるはずのこの自分が。 たった一人の前ではどうにもならなくなっている。 あの男の前でもこんなにはならない。 大体あの男に大して言いたいことを言える時点で自分は他人とは違うのだ。 あのガキは別だ。 あのガキは自分か何を飼っているのかもわかっちゃいないんだからな。 あの男は。 おっと、言ってはいけない。 「な、内藤くん、お茶でも飲む?」 舌が上手く回らないなんてありえない。 ドキドキしてオロオロしてしまうなんて。 「あたしが入れたお茶が見えないのか」 逃がし屋の女が呆れたように言う。 うるさい、黙れ、消えろ。 ドクターは全力で心の中で毒づく。 こんな女に隠れ家を貸すこと自体、本来不本意なのだ。 だが、内藤くんと同じ屋根の下に入れる。 それだけでも嬉しかった。 いつもはこっそり借りた内藤くんのマンションのむかいに部屋を借りてこっそり内藤くんを覗いているだけだ。 双眼鏡も使ってない。 ドローンも、盗聴器も使ってない。 合法的な範囲で、内藤くんを見ている。 内藤くんはセキュリティが甘いので、カーテンを閉め忘れたまま着替えてたりするのを食い入るように見てるし、他のストーカーがそんなところを見たり、侵入しようとするのを排除しているのだ。 窓際の机で、内藤くんか小説書いてるのを見てたりする。 内藤くんの書いてる小説の一番のファンは自分だと自負してる。 密かに公開している小説の数少ない読者の1人なのだ。 全部にいいねを押している。 囲碁を覚えて、内藤くんがネット対戦してるのに参加したりしてる。 内藤くんは強すぎてまだ相手にもされてないけど、いつか、内藤くんの気をひく敵になろうと勉強を重ねている。 内藤くん、相当強い。 本気で学ばないとダメだ。 ドクターはガチで学んでる。 小説もそうだけど、囲碁の勝負も内藤くんの心に触れられる数少ない機会だから。 触れたなら、もっと欲しくなるのが怖いくらいだ。 なんで、そんなに綺麗なの? 内藤くん。 囲碁の一手や文章まで綺麗。 ドクターは内藤くんの小説の文章や、内藤くんの石の動かし方だけで射精ができるようになった。 内藤くんはネットの向こうにそんな存在がいることを知りはしないだろう。 そんなドクターにはもう、同じ部屋にいるというだけで、もう、それはセックス同然なのだ。 「そんなわけないだろ、イカレてんのか」 呆れた声がした。 逃がし屋の女が呆れたように言っていた。 何故心を読んだ? ドクターは焦る。 「いや、あんた声に出してたよ『同じ部屋にいるというだけでセックス同然』って」 女の言葉に驚愕する。 そんなバカな。 常に本心を隠している、それが詐欺師の鉄則だ。 口についてしまうなんて。 でも、内藤くんの嫌そうな蔑んだ目が、それが事実だと教えてくれていた。 「内藤くん、ちがうから、違うから」 必死で言うけど、その冷たい眼差しがたまらない。 その目でみつめられながら、その足の指を1本ずつ舐めてしまいたい。 「あんたなぁ・・・何言ってんだ」 女が内藤くんを抱えるようにしてドクターの視線から隠す。 また声に? ドクターはあせる。 背の高い女は内藤くんより少し高い。 そして、この女は強い。 それは治療で身体を見たからわかる。 だが、譲らない、内藤くんに触んじゃねぇ!! その言葉が声がに出てたのは自覚がある。 「足舐めたいとか言うからだろ、このド変態が!!」 女に怒鳴られる。 ドクターは。 困惑する。 そんな。 そんなことまで? オレは。 オレはどうしてしまったんだ。 女の背中に隠された内藤くんが、嫌悪を隠そうともしていない目に、それでもゾクゾクしてしまう。 内藤くん。 なんて綺麗なんだ。 こんなに嫌われているのに、ときめきがとまらない。 一生愛してる。 ずっと追いかけていく。 「まだコイツが必要だから、アレだけど、この事件終わったら、あたしがこいつを殺そうか?」 女が内藤くんになんか言ってる。 また声に出てたらしい。 内藤くんは黙って真剣に考えていた。 かなり真面目に考えていた。 「まだいいよ。さすがに殺すのは」 内藤くんが言ったので、ドクターは歓喜した。 内藤くんは。 オレの存在を消し去ろうとはしていない。 存在を認めてくれている。 それは、最早、愛!!!! それも言葉にでていたかもしれない。 「考え直すかもしれない」 内藤くんが言った。 「その方がいいね」 女も真面目な顔で言った だがドクターは内藤くんが自分の存在を消し去らなかったことに歓喜し、喜びのあまり踊っていたのだった

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