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肉体装置 3
「神になりたいんだよ」
ドクターは説明した。
俺ではユウタの考え方がさっぱりわからなかったからだ。
「支配欲ってのは性欲よりも上位になれる欲でね、人によれば本能的な3大欲求、食欲、睡眠欲、性欲よりも上にくる。人間はね、神になりたいと思う奴がいるんだよ」
ドクターは教えてくれた。
「人間を思いのままに動かせるって最高にたのしいんだよ。自分のために傷つき、自分のために苦しみ、自分のために泣く。この世界の中で人間がコントロール出来ることなんてそうはない。明日雨を降らせることができるか?出来ない。始まった地震を止められるか?出来ない。人間なんて無力なもんだ。威張りくさっている政治家や権力者をジャングルに放り込んでみたらいい、すぐに死ぬ。何も出来ないからだ。そんなもんだ、だけどね」
ドクターの話は面白い。
なぜなら詐欺師だからだ。
詐欺師の話は聞いてはいけないのだ。
だが、今回ばかりは聞かなければならないわけだ。
「だが、人間には唯一思い通りに動かすことが出来るものが存在する。それは【人間】だ。人間は人間だけを思いのままに動かすことが可能なんだ。人間は人間に対してのみ、神になれる。支配し、従わせ、思いのままに動かすことができる。そう、【神】になれるんだ。これはどんな快楽よりも楽しい」
ドクターの言葉には説得力がある。
なんせ、人を踊らす詐欺師が言ってるんだから間違いない。
これはドクターについての話とも言える。
人を思いのままに踊らすことに快楽を見出し、それを仕事にしている男なのだから。
ただドクターは、【騙されたことにさえ気づかせない】ことをモットーに仕事をしている。
【神】の存在に気付かないで、【神】に【支配】されてる【愚か者】を眺めるのが好きという、もう1つ上の変態なだけだ。
「【支配】は【快楽】だ。【快楽】は【エスカレート】する。つまり、あのガキは1人1人を破滅におとしいれるのに飽き始めている。【死】は最大の【支配】だ。そこまで追い込んだなら先はない。もう行き着くとこまでいってるんだからな」
ユウタとは違う方向に行き着いた支配欲の塊が言うから凄く納得がいく。
ドクターは大金を騙し取って破滅した連中が、自分が何によって破滅させられたのかさえわからず、むしろドクターに感謝さえしているのを見るのが大好きなのだ。
俺がドクターを見過ごしてるのは、悪党相手に仕事してるという理由なんだよね。
まあ、自分達で喰らい合うなら勝手にしとけ。みたいな。
それに大金持ちが金を失ったところで、貧乏人が金を失うより悲惨なことにはならないしな。
俺には、行き場のない子どたちを食い物にしているユウタの方が圧倒的に罪深い。
「でも、まだあのガキも気付いていない。ガキはせいぜい【もっと沢山破滅させたい】位にしか考えてないだろう。でも、こちらが【快楽】にはまだ先があるんだということを教えてやればいい。それに気付けばガキは興奮して射精するかもね、あのガキが飼ってる子供よりはあのガキのがよっぽど抱きがいがありそうな顔をしてる・・・」
ドクターは下品に話していたが、内藤の嫌そうな顔を見て、慌てて話を止める。
品性の低俗さは隠せない。
「破滅させ死なせることより先なんかあるのかよ」
ナツが不快そうに聞く。
ナツはドクターみたいなのが嫌いなのだ。
分かる、分かる。
ナツとは今でも分かり合えるところが多々あるけど、男が不安がるからね、これ以上には近づかない。
俺たちの距離は永遠にこのままだ。
あの日、俺からナツが走り去った時のまま。
そこで終わって進まない。
それでいい。
「あるよ~!!【人を破滅させる】ことを【人にさせる】ってこと。これが究極」
ドクターは明るく言った。
さすがサイコパス、発想が違った。
俺達じゃ死んでも思いつかない。
「人を操って、他の人間達を破滅させていくのを見るのは、1人1人破滅させていくよりも、ずっと楽しいと思うよ、だから、ガキはこの話には絶対に乗ってくる」
ドクターの言葉を俺は信じた、
下劣な品性でしか思いつかない発想だ。
間違いない、ユウタは乗る。
俺は詐欺師を信じた。
詐欺師について信じていいことはある。
コイツらはクソだってことだ。
だから、これは信用できる。
「どうすんだ?」
俺は決めた。
これで行く
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