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肉体装置 5

俺はさすがに音をあげた。 「休憩!!休憩!!」 俺は大声で叫ぶ。 子供達は不服そうな声をあげる。 「ええ、面白くなってきたのに」 「体力ねぇな」 「おっさんじゃん」 好きなことを言ってくる。 「お前らがずっと俺にばかり鬼をさせるからだろうが!!」 俺は怒鳴る。 俺は街の子供達と本気の鬼ごっこをしていた。 俺は自転車乗りだぜ? 体力には自信がある。 あの男とする本気のセックス以外は大丈夫だと思っていたが、街の真ん中でする子供達相手の鬼ごっこを数時間していて、さすがにバテた。 鬼を交代してもコイツらは俺ばかりねらって、俺はずっと鬼をしてるのだ。 俺に追いかけられるのが、男の子も女の子も嬉しくて仕方ないらしい。 こっちはもう、バテバテだ。 男子高校生のフリをしている内藤だけは、涼しげな顔をしてやる気なく鬼ごっこに参加だけはしてる。 内藤を相変わらず数人の女の子がとりかこんでいるが、内藤の冷たさはフリーザー並なのも相変わらずだ。 だが、奇妙に嫌われないのも内藤で、男の子達も内藤に笑いかけ、気のない内藤と言葉をそれほど気にしてない。 「ええ、終わり?つまんない」 ぶうぶういう女の子の頭を軽く叩く。 叩いても女の子は笑ってる。 小学生の妹と態度は変わらない。 男の子達もそうだ。 17位までの子ばかりなのに、この身体を売ってる子達の幼さなさはむしろ、小学生のようだ。 酒と肉に溺れる面との相反する彼らの性質だ。 驚く程に何も知らないことも小学生のようだった。 学校に戻るべき本当の理由すらわからないだろう。 学校に戻って劣等生になる位なら、ここでわかったフリをしている方が自尊心が保たれる。 酷く自尊心を傷付けられてきた子が多いのだ。 与えられるべきものを与えられなかったのに、自尊心だけは傷つけられてきた子が多い。 ナツみたいに、虐待から逃げてきた子もいる。 だが、ここじゃない。 逃げてくるべき場所はここじゃない。 だから俺は、この子達が逃げてきたこの場所を壊す。 でも、その後、この子達の行く先なんか、俺が作れるわけがないのだ。 だけど、確実に食い尽くされることが分かってる未来だけは潰しておきたかった。 「結局、違う何かに喰われるだけだよ、あんな子達は」 ドクターはせせら笑った。 ドクターもユウタと同じ人種なのだ。 ドクターは内藤の気を少しでも引きたいという理由以外にこの子達を助ける理由を見つけられないし、ユウタを消してもこの子達が助かるとは思ってない。 「誰かや何かに自分自身を簡単に渡すような奴はまたどこかの誰か食い物にされるから、そんなことしたって無駄だよ」 内藤には聞こえないように俺に向けて言った言葉こそが、ドクターの本音だろう。 それはユウタの本音でもある。 喰われる奴が悪い。 弱い奴が悪い。 俺はそうは思わない。 逃げ出したいと願うことも、助けを求めることも、何も間違いじゃない。 無力なことに責任などない。 与えられなかったことを理由に貪るなんてことは間違いなのだ。 愛を与えられ、知識を与えられ、正しく信用すること、正しく信用を得ることを知っている人間に誰だってなりたい。 でも、与えられなかったなら、何を信じていいのかもわからないのだ。 それが愛なのかもわからない。 だって。 愛を知らないから。 だけど。 この世界にいるのは悪魔だけじゃない。 出会いは。 奇跡でもあるはずだ。 「街で、鬼ごっこ大会とか開いたら面白そうだな」 俺は思いついて笑った。 「イベントとか企画できないかな、街が協力してくれないかな、俺と仲間で、俺の地元で相撲大会とか開いたことあるんだよな」 俺は「なんで相撲なんだよ」とツッコミがくるのを待っていたんだが、誰もなにも言わない。 みんな奇妙な顔をして俺を見てる。 俺、何かおかしいこと言った? 俺は焦る。 「いや、俺が高校生の時、なんでだか、俺たちの間で相撲が流行ってね、広場とかでやってたら、おじさんとかも参加してきてね、これは面白いから、もう大会とかしちゃえみたいになってね、いろんな人がくわわって、街のお祭りになって、今では毎年大会してるんだよね」 俺の話に子供達はさらに不思議な顔をしていた。 「別に鬼ごっこ大会じゃなくても、なんか、他にカッコイイのがあれば・・・」 俺は困った。 なんだ、この沈黙。 「あたし達が企画とか?そんなの・・・だって、あたし達、好かれてない。街にコイツらがいてんのかみたいなもんだし」 ポツリと女の子が言った。 「俺だって、街のクソガキだったよ」 俺は笑った。 犬連れて、悪ガキ仲間で集まってた。 俺も街のクソガキでしかない。 相撲大会の頃までは、犬は老いてはいたがまだ元気で、俺達の相撲を「暇かお前ら」みたいな目ではみていた。 俺は部活もしてなかったし。 バイト代わりの店の手伝いと予備校。 さすがに眠ることが多くなった犬を置いて休日に自転車に乗るようになったけれど、犬と街で過ごす毎日は何も変わらなくて。 街のクソガキとして過ごしていた。 そんな中で学校で、内藤と仲良くなって。 でも俺は「迷惑」そうに見られる、悪ガキ達の1人なのはまちがいなかった。 「面白かったよ、第一回大会の優勝者が予想外のじいちゃんで。ムキムキのボクサーだっていう兄ちゃんが投げられたりしてさ・・・」 俺の話を子供達は不思議な目で聞いていた。 「これがきっかけで、俺の友達はなんかイベントを企画する仕事を今してるよ」 高校を卒業してから、商店街のイベントやらそういうのを企画することを俺の友達は始めた。 今では商売として成り立っているらしい。 奇妙な沈黙は続いて、俺は戸惑うしかなかった。 「わかんないってこと、何が将来に繋がるのかってことは」 俺は微妙な反応になんとか落ちをつけて、話を終わらせたが子供達の不思議な沈黙はそれからしばらくつづいた。 「じゃあ、もう1回だけ行くか!!」 俺ができるだけ明るく鬼ごっこ再開を宣言するまで、その沈黙は続いたのが俺にはわからなかった。 「【将来】に繋がるのは、いいことだね」 内藤が珍しく人前でこの上もないほどやさしく笑って、それに皆が目を奪われたのも、その後、鬼ごっこが異様に白熱したのも、なんだか、ちょっと俺にはわからなかった。 そして、夜がやってきて、子供達は身体を売りに行き、俺は約束通りユウタと会うことになった。

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