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肉体装置 8

俺は考えていた。 何かがある。 何かががあるはずだ。 それを昼間の子供達とのやりとり、内藤が笑ったこととかを思い出しながら考えていた。 そこから思いついたことがある。 これは計画にはない。 でも、これは必要なことだ。 どうやってやり遂げる? 俺の街で俺はどうやった? 歩く足下に犬の気配を感じた。 もう長く一緒に歩いてなんかいないのに。 犬の気配は犬が死んでも消えることはない。 そう、あの時はまだ犬も元気で。 流石に昔の凶悪さは失ったけど、それでも貫録だけで人を威圧していた。 俺が俺の仲間達と相撲大会を始めようとした時も、 うん 「お前がしたいならオレは構わないぜ」 そういう態度で街を飛びまわる俺についてきたっけ。 俺は子供達と何かをしようと思っていた。 イベントだ。 お祭りだ。 俺たちがやった相撲大会みたいな。 この街でもできるはずだ。 身体を売って、酒飲んで騒いで、咳止めクスリでハイになってたことだけが、少年少女時代の思い出になんかで終わるなんて、寂しすぎるだろ。 何か面白い思い出を。 やり遂げた思い出みたいなんが、あってもいいだろ。 俺はその為の方法を考えていた。 「お前がいいなら、それでいいぜ」 死んだ犬が俺の足下から、いつもの目で見上げたのが見えた気がした。 そう。 そう。 犬、お前は死んでもういてくれないけど、俺はやるよ。 「それがお前だろ」 犬がそういう目で俺を見るのがわかる。 そうだよな。 それが俺だ。 俺は決めた。 そして、子供達に話をしようと思っていつもの通りへ向かう。 今はもう深夜11時だ 子供達は何人か客をとってから、また通りで騒いでいるはずだ。 何かしよう。 俺と。 俺と遊ぼう、 そんなつまらない遊びじゃない遊びでさ。 そう言いにいくと決めて、俺は走り出した。 何だかワクワクしていた。 いつも子供達が座ひこんでいる通りに着く前に騒ぐ声が聞こえた。 何か騒ぎが起きていた。 どうした? アイツら何してるんだ? 何故だか胸騒ぎがした。 俺は全力でかけた。 子供達が騒いでいるのはいつものことだ。 車道に飛び出して踊ったり、蔑飲んでゲロを派手に吐いてみたり、歩道でゴロゴロ転がったり。 女の子達の高い笑い声、男の子達の罵声。 それもいつものことだし、行儀がわるいのもそんなもんだ。 だけど、その声はいつもと、何かが違った。 「シン、本気だせよ」 「泣いてる、ウケるぅ」 「あはっヤバいウケる」 「おいおい、やりかえされんぞ」 子供達は輪になって騒いでいた。 子供達は興奮していた。 そして、その側を通り過ぎる歩行者達の顔が嫌悪に歪んでいた。 なんだ? 子供達が見えないフリをするか、子供を買う品定めをするかのどちらかしかない通行人達の表情がおかしい。 俺はその輪の中に飛び込んだ。 俺は愕然とした。 そこで俺が見たのは。 ホームレスの老人に馬乗りになって殴っている14才の少年と、それを囲んで大笑いしている子供達だった。 子供達はたのしんでいた。 老人が口から血を流し、やめてくれ、と懇願しているのを。 助けてくれと泣いているのを。 笑っていた。 こんなに面白いものはないかのように。 どこにも。 笑えるところなんかないのに。

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