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立ち上がる 2

シンは無事だった。 よし、間に合った。 俺はホッとしたけど、ヤバい。 足腰立たないんですよ・・・腰がやばいんですよ・・ あの男にめちゃくちゃされたんで。 まだ穴にデカいのが挟まってる感じだし、下手すりゃまた腹も下しそう。 たっぷり中出ししやがったからな。 でも。 ここは俺が行かなきゃいけなかった。 男は相手を殺さなければいい程度の認識しかないので、ナツに行ってもらえばうまくしてくれたんだろうけど、それじゃ意味がない。 俺が行かなきゃ。 シンを助けに。 だから来た。 男やナツも手分けしてシンを探してくれてるけど、俺が最初にみつけられて本当によかった。 内藤は連絡係として待機してる。 俺がこの辺にいることを他の2人に告げてくれてるはずだ。 「お兄さん・・・」 シンが泣いた、 俺はシンが可愛かった。 あの子達の中で1番中身がガキだった。 俺の妹の友達と遊んでやってる時と同じ感じがした。 構われない子供が優しくされるのが嬉しくて仕方ない切ない感じも。 シンは。 お爺さんを殴れるような身体にはなっていても、中身はガキなのだ。 誰も、コイツを育ててやらなかったのだ。 そしてユウタにはそれが都合よかった。 「立て、シン。まだ気絶すんじゃねぇ!!」 へたりこんで、安心したのか呆然としているシンに怒鳴る。 俺は来たけどな、シン、まだ全然助かっちゃいないんだよ。 自分の怒鳴った声が自分の腰に響く。 今の1発くらいじゃないか? マトモに打てるの。 正直、身体かもう動くとは思えない。 でも、だ。 やらなきゃいけない。 「自分で立って逃げろ!!いいか、でっかい燃えてる男か、目付きの悪いお姉さんのどちらかが、お前を助けにきてくれる。それまで走れ、走り続けろ、自分の足で逃げろ。自分で逃げろ!!だから立て!!」 俺は叫んだ。 この連中相手に最初からやり合えるとは思ってない。 俺は喧嘩が弱いわけじゃない。 でも、男やナツとはわけがちがうのだ。 「燃えてる男って?」 シンが思わずと言った調子で聞いてくる。 「見りゃ分かる!!」 俺はそう怒鳴りかえすしかない。 そう、見りゃわかる。 男やナツも手分けしてシンを探してくれているんだから。 見つけてくれるはずだ。 でも。 こっから俺はボコられるんだろうけど。 男達の関心は既に確実にシンから俺に移ってた。 俺が仲間をノシたから。 あの1発は綺麗にきまって、男は起き上がってこない。 あと4人。 シンを逃がしてからは、俺は上手く殴られるようにやるしかない。 殴られ方にもコツはある。 それに、シンを見つけたらすぐに、男かナツが俺を助けに来るはずだ。 シンの確保を最優先するように男には言ってあるから。 俺を取り囲みながらも、最初の綺麗な一撃のおかげで、警戒して男達は襲ってはこないのは助かった。 「自分で立って、諦めないで、逃げるんだ、シン!!」 俺は怒鳴った。 でないと、俺はお前を助けてなんかやれない。 お前は自分で自分を救わないと。 シンの目に涙と、そして、確かに意志が見えた。 俺は笑顔をつくった。 シンが安心して行けるように。 「立って、走れ!!」 そして、それは命令だった。 シンは跳ね上がった。 バネのように。 なきながら。 俺を見た目に痛みがあった。 俺を置いて行くことに。 気にすんな、好きでやってんだ。 これは俺の趣味だ。 シンに反応しかけた男を、何とか足を踏みしめ殴りつけた。 顎をうち抜けた。 倒れる。 これは、ラッキーパンチだった。 よし、OK!! あと3人。 そして、路地から走り出すシンを目の隅で、確認した。 これでいい。 でもそこから男達は一斉に俺に殴りかかってきた。 そこからは俺は一切攻撃を放棄した。 身体を柔らかくし、顔を腕でガードし、防御に徹した。 背中で蹴りやパンチを受ける。 肘やヒザで拳や足を受ける。 受けれないパンチも多数あったけど、掴まれそうになる度肘を当て、頭を当てて相手の拳や足を潰していく。 時間稼ぎだ。 それでも当たる拳や足に呻く。 でも、大丈夫。 大丈夫。 大丈夫。 来てくれるから。 男が来る。 信じてる。 だから、大丈夫。 人間は終わるとわかっている痛みには耐えられる。 俺は歯を食いしばった。 その時だった。 「はい、ストップ」 面白そうな声がした。 男達が止まった。 その声に怯えたように。 何か様子がおかしかった。 俺は顔まで上げてたガードの腕を下ろした。 1人の男が路地の入口から面白そうにこちらを見ていた。 その男を見て、俺を取り囲んでいた男達に奇妙な緊張が生まれていた。 「・・・・・・あんた面白いね、お兄ちゃん」 男は笑った。 俺に。 笑顔自体は無邪気なモノだった。 背は俺よりは高い。 でも特別に高くはない。 平均的だ。 でも骨から太くて、生まれつきの体格の良さが見えた。 代々肉体労働者じゃないとなれない身体だ。 筋トレとかで作れる身体じゃない。 ナチュラルに強い身体。 派手な時計やアクセサリーがカタギではないことをしめしていた。 でも。 そっちでもない。 そっちに行ってしまえば、こんな笑顔はできなくなる。 男はまだ不良少年の無邪気な笑顔をもっていた。 まだそっちには行っていない側の。 「お前らは帰れ。オレはそのお兄ちゃんと話があるんでね」 男は俺を取り囲む連中に言った。 「・・・偉そうにしやがって」 「なんだよ・・・」 ブツブツ言いながらも、俺を取り囲んでいた男達は俺から遠ざかりだす。 そして倒れていた仲間をかつぐ。 舌打ちし、唾をはきながら、それでも強くこの現れた男に何も言えないことが、その力関係をしめしていた。 この男は。 誰だ? 「・・・シンちゃんをね、渡してもらいたいんだけどね」 男はポケットからタバコを取り出しながらいった。 「オレもシンちゃんに用があるんだよね」 男はタバコに火をつけて、煙を吐き出しまた笑ったけれど、それはさっき見せた無邪気なものではなかった。 俺は首を振った。 もう、話す気力がなかったのだ。 でも、誰にもシンは渡さない。 「・・・そう。お兄ちゃん、あんた面白いな。あんなクズのために身体張るの?」 男の目が緩んだ。 言葉とはちがって声や眼差しは柔らかい。 わからない。 不思議な男だ。 善人ではないと誰にでもわかるのに、なんか、安心する。 ドクターやユウタの「嘘」とも違う・・・。 「シンは・・・渡さない」 俺はそこまで言って倒れてしまった。 とっくに限界だったし。 何よりも。 その不思議な男の背後に、身体半身の炎と眼を燃え上がらせた鬼が立っていたからだ。 男が咥えるタバコの先の色と同じ炎が身体と目から燃え上がっていた。 「ひぃ?!」 振り返った男が悲鳴をあげていたのは当然だ。 ほら。 ちゃんと来た。 「その人、ケガさせたらだめだからな。ていねいに扱えよ」 俺はそれだけは地面に突っ伏したまま言った。 不服そうなうなり声を聞きながら、俺はやっと意識を失うことができたのだった。 男がここにいるなら。 シンはもう。 大丈夫ってことだから

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