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立ち上がる 7

目覚めたら当たり前のように男の腕の中で。 男は食い入るように俺を見つめていて。 その形相が凄すぎて笑った。 食い殺しそうな顔してんな、お前。 何を必死になってんだ、可愛いな。 頭を撫でてやると、低く唸った。 可愛いくならないわけがないだろ、俺だけをこんなにも必死て求めてくるんだから。 まあ、ちょっとばかし、いや、かなり、危ういけど。 シンが部屋の隅で、何故か正座でシュンと項垂れていたので、大人にマウントを取られたのだろうな、と。 服を着替えていたのが気になる。 俺が寝てるあいだに何かはあって、それは男が原因だろうな、とは思った。 男はとりあえず俺の近くにいる人間全員にマウントを取るからだ。 内藤も、ナツもやられている。 それで男が安心出来るならまあ、もう仕方ないかな、と。 シンには可哀想だけど。 俺がいくら「お前だけがパートナーだ」と言ったところできかないし。 まあ。 怖い想いはさせただろうけど、暴力は振るわないし、まあ、なんだ。 諦めている。 ホント、俺が好きなんだよな、コイツ。 「お前は本当に可愛いな」 俺は心から言って、笑って男の頭を撫でてやった。 貪るような、食い入るようなギラついた男の目が一瞬て和らいで細められた。 低く唸るのは機嫌がいい証拠だ。 男は頭を撫でたり、背中をトントンしてやると、事の他喜ぶ。 首筋の匂いを嗅がせてやる。 男は俺の匂いで落ち着くので仕方ない。 男の頭越しから目だけで、うなだれているシンに笑ってやると、泣きそうになってたシンが少し口元を緩めた。 ここからだ、シン。 とりあえずとことん付き合ってやる。 助けた以上は俺はお前に責任がある。 「始めるぞ!!祭りと、ユウタを追い込んで、そして子供達を助ける。シン、おまえも参加するんだ」 俺が言って、シンは目を丸くする。 祭り、までは理解していただろう、昨日シブサワさんと話をしていたところにいたから。 だが、ユウタを嵌める詐欺や人身売買についてはまだ何もシンは知らない。 でも、こうなったらシンにも手伝って貰おう。 「派手にやるぞ!!」 俺は陽気に言った。 男が仕方無さそうに唸った。 この男にしてれば、祭りやユウタ退治や人身売買の阻止よりも、俺をこうして腕の中で抱き締めていたいのだ。 「頼りにしてるぜ、相棒」 でも、俺は男に言った。 犬はもういない。 でもコイツはいる。 犬とは違う。 でも俺の相棒だ。 一緒にやり遂げてもらう。 俺を絶対に置いてはいかない相棒だ。 その点だけでは、俺は犬を少しばかり恨んでいるからだ。 男の動きがピタリと止まった。 なにごとかと思って男の顔を覗き込むと、これ以上はないくらい真剣な顔をしていた。 「お前が望むなら、オレはなんでもする」 男が生真面目に言ってくるから調子が狂う。 この男は。 奇妙なところでとても真面目なのだ。 「お前のためならどんなことでもしてやる」 俺の目を真っ直ぐに見つめて言うから、シンの前だから、俺は真っ赤になってしまう。 「そう・・・アリガト」 何故かカタコトだ。 寝たら身体はかなり回復した。 自慢じゃないが俺は身体は強い。 先祖代々肉体労働者の家系だからな。 ジムで鍛えた金持ち連中の見かけばかりの身体とは違う。 子供のころから実家の食堂の配達でエレベーターのない古い団地の階段を駆け上がり(ウチの食堂は本来配達はしてないけど、団地のお年寄りのためにならした。なんなら買い物もついでに頼まれたなら持っていった。エレベーターがないのでお年寄り達は脚か痛む日には出かけられなかったからだ)、高校からしているバイトは日雇いの現場だった。 常連さんの商会してくれたバイトで、犬を連れて行っても良かったのと日当の良さが決め手だった。 俺の身体はそうやって作られた。 労働者階級ナメるなよ。 だが。 そんな俺でも。 本気で欲しがる時の男はヤバいのだけど。 「ただいま」 ナツが帰ってきた。 「どう?」 短い言葉で体調を聞いてくる内藤と、内藤の背後霊の化したドクターと。 さて。 ここから一気にはじめて。 全てを終わりへ向かわせる。 祭りは始まり、そして終わる。 オレ達の祭りを始めよう。 始めるんだ。

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