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途中ですが閑話 ドクターの調教 そして内藤君とドクター
ドクターはご機嫌だった。
久々楽しいセックスだった。
見た目は好みじゃないが、自分じゃ認められない欲望を持ってる男を組み敷くというのは楽しい。
泣いて苦しむくせに欲しがるのって、たまんないよね、と思い返してニタニタ笑う。
処女から結腸まで抜くのはなかなかない。
酷くされたらされる程感じるから、穴はちょっとキツすぎてもイキまくって具合が良かったし、あんなコワモテの男が泣き崩れるのは支配欲をかきたてられるのも良かった。
「犯して下さい、お願いします」
と何度も言わせて、喉の奥まで使ってやった。
ああいう相手はなかなかいない。
詐欺師という仕事をしていれば、セックスも仕事なのだ。
支配する道具であって、なかなか純粋には楽しめない。
まあドクターは、それなりにはどんな相手でも楽しめるけど。
ドクターはセックスの相手は選ばない。
必要なら誰とでもセックスをする。
セックスも道具だからだ。
でも。
ドクターは部屋のカーテンをそっと開けた。
手にした双眼鏡で覗きこむ。
内藤君の部屋が見える窓だ。
そのためだけに、住人を追い出しこのマンションのこの部屋を借りた。
もちろん内藤君に気づかれてはいけない。
内藤君が机に座ってノートパソコンに向かいあっている。
内藤君はゆっくりと指をキーボードに踊らせているから、小説を書いてるんだ。
夢見るような、真剣な眼差しがディスプレイの向こうをみつめている。
内藤君の小説が更新されたなら読まなければ。
それは綺麗で、小さな物語だ。
ささやかで、透明な。
ありふれた日常 が内藤くんの中を通ると、美しい物語になる。
内藤くんは自分のためだけに書いてる。
読者は少ない。
少なくていい。
こんな綺麗なもの、本当は他の誰にも読ませたくない。
内藤くんは誰にもしられることなく言葉をつむぐ。
綺麗なものをつくりだすためだけに。
僅かな人にしか、その綺麗さをみせない内藤くんが好き。
内藤くんは自分の家族と、あの忌々しいクソガキにだけにその優しくて綺麗な内面をみせる。
そして、わずかな読者にだけ。
ドクターは食い入るように内藤くんを見つめた。
触れることさえできない。
同じ部屋にいたとしても、手をだす度胸さえなくなってしまう。
内藤くんの紡ぐ物語は全てコピーして、暗記するくらい読みこんでいるし、実は震えながらコメントも送ったこともある。
何度も何度も書き直し、結局あたりさわりのないことしか書けなかったけど。
送ったコメントを、内藤くんが読んで微笑んだのも知っている。
返信はくれなかったけど。
笑ってくれたのだ。
あれは初めてドクターにむけられた微笑みだった。
あの笑顔をおもいだして、ドクターはその晩何度も何度も抜いたのだった。
この腕の中で、笑ってくれたのならどんなに幸せだろうか。
内藤くんを見るだけで、盛りのついたガキみたいに勃起する。
さっき金髪男をあれほど犯してきたのに。
夢見るような眼差しで物語を紡ぐ内藤くんを、双眼鏡で見ながら片方の手でドクターは自分のモノを扱きはじめた。
「内藤くん・・・内藤くん・・・好き」
切ない位に言葉がこぼれる。
男を犯していてたのしんでいた快楽なんか、このオナニーの前では大したことがない。
内藤くんをみつめてする、オナニーの方が切なくて、気持ち良くて、虚しい。
「内藤くん!!内藤くん!!」
叫んでしまう。
近くにいても、手を出せないのに、欲望はどこまで激しい。
欲しくて欲しくて仕方ない。
綺麗な綺麗な、内藤くん。
吐息とともに射精して、ドクターは涙を流す。
「内藤くん、内藤くん・・・どうやったら好きになってくれるの?」
詐欺師の生まれてはじめての恋はどこまでも切なく、苦しかった。
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