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祭り 2
俺はとっても忙しい。
「何が必要なのかから考えていくぞ!!したい夜店はたこ焼き屋とカステラ焼きと、ヨーヨー釣り?他に何がある?」
俺は子供達と今は閉店した居酒屋にいる。
色んなものが運び出されてはいるが、まだテーブルと椅子はあるしと電気は来ている。
シブサワさんの好意で、ここをひと月ほど借りれることになった。
「貸すはずだった相手がとんだからいいよ」
とのこと。
まあ、タダとはいかないが、そこは格安で。
俺も男から金を借りている身なので出来るだけ経費は抑えたい。
「街で祭りをする会(仮)」の事務所になる。
来月、子供達と一緒にこの街で祭りを行うことにした。
子供達は思いの外、のってきた。
ユウタが協力的ってのはある。
生活に必要な金額だけで、いつもより頑張って身体を売らなくても良いことにしたからだ。
「オレのために頑張ってくれる子が好き」
と身体を売らせてきたくせに。
ドクターのトラップにかかったユウタは今はそちらに夢中なのだ。
この祭りをユウタはユウタで利用するつもりなのだ。
ユウタは新しい獲物を探している。
今まで少しずつ洗脳していったのをやめて、ひと月でテロリストにするつもりだ。
祭りの日。
ユウタはこの街を死の街に変えるつもりだ。
ここから先は。
ドクターの手腕になるがさて。
どうなるか。
俺はユウタとは違って、祭りを無事にやりとげる。
子供達は自分達で成し遂げる。
それがどんな意味になるのか分からないけど、身体を売り、咳止め薬とお酒で騒ぐ、現実から自分を切り離す遊びよりは、現実の中で生きることになるはずだ。
俺は。
子供達に生きて欲しかった。
現実から離れてしまえば、そこから帰れなくなるからだ。
子供達は、まだ帰れる。
帰ってきて、この世界で生きられる。
夜の街に溶けて、溶かされてしまうのではなく。
夜の街は弱肉強食だ。
そして闇が満ちている。
食い尽くされる未来とは違うものを生きて欲しかった。
「かき氷したい」
ユイが嬉しそうに言った。
「じゃあ、ユイとサヤカはかき氷な。夜店担当は何が必要なのか考えて。宣伝担当はどうすればいいのかを考えて。イベント班、何をするのか、何がいるのかを考えて」
俺は子供達に自分達で考えさせるつもりだった。
街での許可は裏側は街の顔役のシブサワさん経由で、行政的な許可は未成年の支援活動をしてる団体を通じて許可をえている。
街の振興組合とやらにも協賛頂いている。
ただし、夜の20時には終わりになります。
未成年だからね。
コイツら毎日朝まで飲んでるのを見過ごされてるけど、この日だけは未成年扱い。
変な話だ。
俺の幼なじみフワが、性被害者の支援活動をしているのでそこのパイプを使わせてもらった。
フワはまだ外国にいるんだけどね。
「なんだって協力するよ、するに決まってるだろ?もう、あの化け物嫌になった?なったよね?オレはいつでも恋人になるよ」
相談したらフワは協力してくれることを約束してくれて、あっという間に繋いでくれたのだ。
「アイツはもうやめてオレにしたら??」
フワが半分以上本気で言うのには閉口したけど。
タブレットの向こうでまくし立てるフワに、男が思い切り咆哮を上げて、困るからだ
ぐぅおぉぉっ!!
ぐぅおおおおっ!!!
喉を垂直に立てて髪を逆立て男がキレる。
ボロ家が震える程の声だった。
「熊!?」
ほんとに壁が薄いので、驚いた隣りの婆ちゃんの悲鳴が聞こえたけど、熊って鳴くの?
「近所迷惑!!」
そう怒らないといけなかった。
「婆ちゃんごめん、テレビがでかかった」
壁越しに謝っておく。
男は大人しくなったが、毛を逆立て、画面の向こうのフワを睨みつけていた。
いや、フワがネットの向こうで良かった。
男は俺から引き離そうとする全てを許さないからだ。
でもフワは半分以上本気だけど、俺が男と離れることはないのは知ってる。
だから、男もいちいちフワの挑発に乗らないでいいのに。
そしてフワはわかってやってるから、ホント、タチが悪い。
ふたりが再会する日が怖い。
まあ、とにかく。
俺と内藤はほぼ文化祭のノリの祭りの企画を手伝っている。
そうだな、文化祭だ。
学校やいろんな場所から切り捨てられた子供達の。
子供達は。
真剣で。
思っていたよりも。
楽しそうだった。
「お前の街にあったやつ、アレできないかな」
内藤がイベント班の子供達と話をしていて、俺に話を振ってきた。
「あの祭りでみんなが乗って騒ぐやつ」
内藤の端的な説明でわかってしまうのが自分でもすごい。
「地車?」
そう、神様をのせた車を引いて街中を練り歩くのだ。
この街には神なんかいないだろう。
欲望こそが唯一の神だ。
「神を創り出すんだよ」
内藤が静かに言った。
その意味は俺には分からなかった。
地車をダサいと子供達が言ったので、俺がキレて、街の祭りについて熱く語ったら、意外とウケて、ダサくない地車をするんだという話になった。
ダサくない地車が良くを分からないけど、そこは子供達に任せる。
シンは宣伝班として何か一生懸命話している。
シンはあの日以来、身体を売るのを止めた。
14才だから正規のバイトはできないけど、そう、昔ナツがそうしていたように知り合いの店のちょっとした手伝いをして小遣いを貰ってる。
ナツと隠れ家で寝泊まりしてる。
通りには来るけど、もう咳止めクスリも酒もやらない。
皆に笑われても、だ。
俺にホームレスのお爺さんに謝りに行きたいとも言ってきた。
シブサワさんをつうじて、お爺さんきいてみたら「顔もみたくない」とのことなので、そこはお爺さんを尊重した。
お爺さんは俺と男のことを覚えていて、生きたまま燃えてる怪物に運ばれた話を何度もしているそうだ。
むしろ俺が心配されてた。
助けてくれたお兄ちゃんは大丈夫だろうか、化け物に喰われてないかと。
食われてます(性的に)
シンは許されないことも学ばないといけない。
許されなくても。
償わなければならないことも。
シンは真剣に祭りをどうやったらたくさんの人に周知させられるのかをみんなと考えていた。
シブサワさんやボランティア団体の力を借りたならあっと言う間に宣伝してもらえるのはわかってるし、子供達の間のネットの繋がりを使えばそれはそれで簡単なんだけど、それは禁じ手にした。
だから、ポスターを店に貼って貰うという、泥臭い今どきない方法に行き着いていた。
ポスターのデザインとかも子供達に任せる。
タブレットを与えたら、なんかあっと言う間にデザインして、作り出してる。
これをプリントアウトすれば出来上がりだ。
お前ら実は凄いんじゃない?。
イベント班は地車をどう作るかについて議論していて、内藤が静かに的確なアドバイスを入れている。
子供達もどうやら内藤が年上であることに気付いてきたみたい。
祭り。
祭りを俺は子供達と成し遂げる。
そして同時に。
子供達を助けだし、人身売買を終わらせるのだ。
さて。
男とナツ、そしてドクターは。
上手くやっているだろうか?
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