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祭り 3

「子供達の世話係」の行動はほぼ掌握した。 ナツは考え込む。 子供達をあそこから連れ出すのはそれほどむずかしくないだろう。 ナツだけじゃなく、あの男もいるのだ。 銃くらいは持っている可能性はあるが、こんなところでぶっぱなすわけにはいかないだろうし。 秘密を守るためだろう、お世話係は今は2人だ。 3人いたが、 1人はナツが病院に送った。 ナツの恋人を殺した男だ。 一生をかけてナツはその男の身体のパーツを少しずつ奪っていく予定だ。 殺しはしない。 彼と約束したからだ。 彼との約束は守らないと。 ナツにとっても。 彼は特別なのだ。 言葉も交わしたことのなかった、少年。 犬と一緒に歩く彼と、たまに視線を合わせること、それがどれ程あの頃のナツにはシアワセだったか。 忘れられるものではない。 犬のあの醒めた視線も。 「コイツの相棒はオレだけどな、そこはわかっとけ」 そういう目をしてたあの犬をナツは嫌いじゃなかった。 彼と犬は。 確かに完璧な一対だったから。 「子供らをあそこから出すだけなら簡単なんだかな。ドクターに言わせたら、出したところでユウタのとこに戻っちまうってよ」 いけ好かない男が言った。 ナツがさっさと救い出したらいいのにと思った心を読んだのだ。 この男は無遠慮なように見えて、実はものすごく観察している。 人間が何を考えているのかを常に感じとっている。 ドロドロした殺意の中で生き延びてきた人間の感覚だ。 ナツが父親に殺されないように、父親の殺意が高まる前に家出をしていたのと同じだ。 間違えたなら、もっと早く死ぬはずだった。 僅かな表情、足音、眉の位置、空気感さえ読み取る。 こんな男が彼の傍にいることにナツは全く納得してない。 彼にはあの彼がいい。 内藤くんがいい。 ナツにも距離をとって接する内藤くんだけど、彼には冗談言ったり怒って見せたりするの、可愛くない? 可愛い。 たまんない。 内藤くんは綺麗。 内面の強さと綺麗さがある。 ああいう人なら。 ああいう人と。 初恋を綺麗に弔えるのに。 「分かってる。じゃなきゃ、彼が子供達を助けるにきまってる。ユウタの元に戻ったなら、同じことの繰り返しだからね」 まずユウタをなんとかしないといけないのだ。 配信されている動画を見た。 お世話係を執念深く尾行し続け、盗聴し、ドクターにバソコンをハッキングさせ、あの部屋で何が行われているのか、編集前の動画や、監禁させられている子供達の様子まで見た。 未成年の子供が犯されるのが大好きな連中のために配信されている動画の中で少年達は犯されながら、ユウタの名前を呼んでいた。 この後に及んで。 メールのやり取りから少女達が「産む機械」にされていることもわかった。 だが、おそらく妊娠させられている少女達も同じだろう。 ユウタの名前を呼んでいるだろう。 流石に引いた。 これは悪党でもやってはいけない、そう、プロの「仕事」としてやっている悪党なら手を出してはいけないことだ。 一線を超えてる。 これはダメだ。 確かに儲かるだろうが、見つかった時に全て根こそぎにされるやり方だ。 人を食い物にするにも、手順があるのをナツは知ってる。 まあ、ハッキングしたメールのやり取りは証拠にならないだろうし、なんとか捕まえたところで。 捕まるのはお世話係だけだろうが。 でも、こんな商売があったことが発覚すれば街のアチコチに飛び火して、面倒なことになる。 そういうのは、飛び火させらられる先は絶対に許さない。 警察よりは。 街に教えて方がいい。 そして、彼は考えている。 助けるタイミングはユウタをどうにかした後にしないと、と。 「単に助けるだけのつもりじゃねぇよ、アイツは」 男は自慢げに言った。 まるで彼を理解しているのは自分だけだ、かのように いつものマウントだ。 この前は、「お前なんか絶対知ることの出来ない、アイツの中の凄さ」について語られて、マウントとられた。 ムカついたけど、「え、何、それ、詳しく」と思ってしまう自分の腐り加減が悲しい。 幼くして裏社会で生きてきたナツには、BLは唯一の趣味で光だった。 優しくしてくれたホステスさんが、貸してくれたR18のBL漫画と小説から始まって、切なくえろい純愛に心を奪われてしまったのだ。 自分には普通の恋などもうむりだとわかっていたから。 だから。 普通で優しい男だったのに、堕ちてきた恋人を愛した。 恋人は殺された。 ナツはもう恋はしない。 それが正しい。 闇で生きる生き物のが、日の中にいる生き物を思うことが間違いなのだ。 ナツは自分と同じ生き物は愛さない。 この男やあの詐欺師のような。 同じ化け物を。 「アイツは。ガキどもを本当に助けてぇんだ」 それを自慢げに語る化け物。 お前なんかが言うか? どうせろくなことをしてきたわけもないのに。 ナツは思う。 それに気付いてるくせに、男は気にしない。 何も気にしない。 彼の傍にいられることだけがすべて。 そのためになら何だってするだろう。 なんて。 なんて。 身の程知らずな。 彼と自分が釣り合うと本気で思っているのか? ナツはたった一人殺しただけでも彼を諦めなければならなかった。 殺すしかなかった父親を、愛してるからこそ殺したのに。 それでももう彼の隣りにはいられないとわかったのに。 この男はそんなものではないはずなのに。 その卑しい身で彼と共にいたいと思うのか。 なんて。 なんて。 妬ましい。 ナツは彼の傍にいたいとは思わない。 また消える。 それでいい。 思い出は増えた。 彼が好き。 決して隣りにいられないこらこそ。 光は。 我が身を焼くからだ。 だからこそ。 ナツは我が身を焼くタトゥーをもったこの男を。 どんなに焼かれようと彼の傍にいる男を 羨ましいとも思ってしまうのだ。

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