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祭り 5
準備は整った。
子供達には今日は大人しく早く寝ろ、と言ってある。
子供達はこのひと月走り回ってくれた。
クタクタらしく、おとなしく「祭り実行委員会(仮)いや、もううなんでもいい」の事務所に男の子達、そして、女の子達は街の少女を支援する団体の人のツテでひと月借りた部屋でみんな寝てる。
少くとも、積極的にはこのひと月子供達は身体を売ってない。
飯は喰わせているし、少しだけどバイト代のようなものも出してる。
でも、これは営利ではないイベントだから、あくまでも子供達がちょっとしたものを買うためのものだ。
儲けはホームレスの支援団体、シブサワさんのとこに寄付する、と言ったらクソガキ達がブーブー言うこと言うこと。
「金を儲けるのはまたおまえ達だけでやってみたらいい。今回で勉強になるだろ」
と言ってる。
シンは確実に売りからは足を洗った。
シンはシブサワさんの所でバイトを紹介してもらうことになった。
シンは家に帰るのだけは嫌だというから、正規のバイトというわけには行かないけど、18になったら正式に雇うと店は約束してくれた。
シブサワさんの関係の、意外に夜の店じゃない、わりとオシャレなカフェだった。
皿洗いからになるし、言葉遣いや、色んなことをシンは勉強しなきゃいけない。
でも、一見優しげで、でも絶対ぬがない長袖の下に厳つい和彫りが入っている店長さんは、シンを見捨てないと約束してくれた。
学校に行きたいといったなら、通信でも何でも行けるように協力したいし、料理とか接客とか、シンが身につけられたらいいと思っている、と。
「ボクは人間のクズでしたからね、ボクに比べたら可愛いもんですよ」
店長さんはニコニコ言った。
いえ、店長さん。
俺はドクターとか現役のドクズを知ってますのであなたが天使にみえます。
俺は何度も頭をさげた。
シンを助けた以上は、俺にはシンに対する責任がある。
シブサワさんにも何度も何度も礼を言った。
シンは祭りが終われば社員寮に入る。
本来、まだ中学も卒業していない子を働かせるのはダメなんだけど、まあ、あれだ。
この街も俺の街と同じで、その辺はゆるいし、あんま、そんなこと気にしてるやつはいない。
大体、子供が身体を売っていても気にしてないのだから。
「なんかあったら連絡しろ、様子を見に行くからな」
そうシンには何度も言っている。
シンは黙ってうなづくだけだけど、その目には決意があるし、祭りの準備だって誰よりも真面目にやっている。
シンはこの街から出られないかもしれない。
この街はある意味、懐が広くもある。
捨てられた子供をそのままに受け入れる場所てもあるからだ。
だとしても。
ここでだって、闇に取り込まれず生きる方法はあるのだ。
夜に生きるとしても、闇じゃない。
シブサワさんみたいに闇と昼と夜、その狭間で生きてる人もいるし。
俺はシンにはこちら側で生きてほしかった。
そう、そう、今日のハイライトについて話そう。
準備が大詰めになっていた時のことだ。
内藤がやってきた。
「地車が出来上がったよ!!」
そう報告してくれた。
「おっ?」
地車と聞いて俺が反応しないわけがない。
俺の街では神様をのせた地車で街中を練り歩くのだ。
子供達にその話をしたら、最初はダサいと言ってバカにしてたけど、なんだか乗り気になって、地車を自分達て作ると言い出した。
創作班が昨日まで必死になって作ってたはずだ。
創作班は、屋台看板やノボリとかもつくってたのでギリギリになって完成した。
俺もまだみてない。
今回は地元の協力を得て、範囲はわずかだけど地車を引いて回れることになったのだ。
さすが警察とも結びついてる夜の街の関係者達、主に、シブサワさんのお陰だ。
善意だけじゃないのはわかってる。
街の人たちにとっても子供達は問題は問題だったので、(許可なく人のシマで商売してるし、街は汚すし、夜の店絡みで問題を起こすし)子供達を「掃除」するよりは、祭りとかがキッカケで子供達がこれ以上夜の街の迷惑にならなくなる方がありがたい、というところだろう。
未成年を「掃除」するのはさすがに色んな問題が出てくるからだ。
ユウタの人身売買もあんな明らかな形でなら街は絶対に認めない。
警察が厳しくなり、商売に支障が出るからだ。
俺やナツが何かしてるのをシブサワさんは分かってるみたいだけど、見逃しているのはソレだ。
街にもユウタは害悪なのだ。
それに薄々気がついている。
さすがに街はよく分かってる。
ユウタは明日、この街で沢山人を殺すつもりつもりだからだ。
そこまではわかってなくても、街は俺たちにユウタを始末させたいのだ。
そして。
ユウタ街そのものに本当に危害を加えるとわかったら?
街がユウタを始末する
ユウタとユウタのバックである半グレ組織も。
いずれ、そうなっていただろう。
ユウタはホンモノのサディストなのだ。
沢山の絶望と苦しみがみたいだけの。
街はそれを許さない。
良いとか悪いとかではなく、街そのものを消し去るものを認めるわけがないからだ。
俺はそれを狙っていた。
とにかく俺は内藤と一緒に外へ向かった。
明日の祭りの準備を行なう街の真ん中にある広場に向かう。
ここでよくイベントが行われてる。
先週はトルコのケバブ屋台が集まってどこの店が美味しいか投票するコンテストとかやってた。
ここで明日夜店をする。
夜店班が準備してる。
内藤が自慢げにトラックの前に立った。
内藤がこのレンタルトラックを運転したきたのだ。
工場から地車を運ぶために。
みんなもう内藤くんが16才だなんて思ってない。
バレてるがもういい。
みんな無愛想でそっけない内藤くんが好きなのである。
ガチ惚れしてる女の子達以外も。
みんななんでだか、内藤が好き。
俺に絡むみたいには絡まないで、ちょっと距離を置いて好き。
内藤は。
そういう男なのだ。
でも、今日の内藤はいつもより興奮していて、はしゃいでる、感じはした。
当社比だけど。
わずかながら。
だって、笑ってるってわかる。
いつもなら、すこし笑って消える笑みが残ってる。
「オレ達の地車だ」
内藤がトラックの荷台を指さした。
ブルーシートに覆われたそれ。
内藤の言うところの、この街の神が乗る地車。
もちろん、本物の地車よりはるかに小さい。
小さな車くらいだ。
2トントラックに乗るくらいの。
子供達が作り上げたそれ。
俺は。
なんだかワクワクした。
子供達が作った地車にはどんな神が乗るのかな、とか考えてしまったけれど、俺は俺の街の神がどんなのか全く気にしてなかったからなぁ。
でも。
皆が祭りが好きなんだから、神もきっと良い神様だと思ってたし、子供達の神様もきっと良い神様だろう。
創作班の女の子がリーダーだった。
その子が内藤に促されて、ブルーシートを外すことになった。
作業を中断してみんなが見に来た。
地車は明日の祭り終了1時間前に夜店をやめて、みんなで引いて廻ることになっている。
祭りのハイライトになるだろう。
子供達は、自分達で作った地車に、自分達の神を乗せて練り歩くのだ。
内藤がそれに拘った理由はわからないけど、子供達も何故かそれを喜んだのだ。
見捨てられた、行き詰まった子供達の神。
それはどんな神なのか。
ブルーシートが女の子の手で引き落とされた
そこに現れた地車は。
俺が想像していたものとは・・・
全く違った。
「うわっ!!」
俺は声を漏らした。
それは渋い艶のない銀色の金属の部品と色んな色のコードと木製の部品で作られた、なんていうの?
野生に帰っ機械のような、いや、なんていうのか、忘れられた古代のテクノロジー感?
装飾の代わりに何かの部品や木の骨組みがあるのだ。
地車を見たことのない子供達が、地車をSFっぽく考えたのだ。
かっこよかった。
どこかレトロでSFチックで、
「スチームバンクというよりは、もっとジャンクなジャンクパンク?にしてみたんだ!!」
女の子が笑った。
彼女のデザインだった。
古い小さな車のボディを使って作ったんだそうだ。
廃車の部品や廃材をつかって。
ここは俺の友達の職人から紹介してもらって、この街付近の鉄工所に協力してもらった。
女の子もみんなで溶接とかもしたらしい。
職人さん達が乗り気になって、ものすごく強力してくれた、とは聞いていたが、これは・・・力作だと素人でもわかる。
つや消しのシルバーに塗られた機械の部品の冷たさと、廃材の木の朽ちた感じと、コードの色鮮やかさ。
捨てられた部品が寄り集まって生まれた機械みたいで。
奇妙な格好良さがあった。
車のタイヤをそのまま使って、引き回せるようになっていた。
地車には機械と木で組み上げられた玉座があった。
玉座だとわかる。
引き回す車の上にあるのだから。
「神様が乗るの」
女の子が教えてくれた。
もちろん、実際は誰も乗らない。
子供達は。
この地車に自分達の神を下ろすつもりなのだ。
この玉座に。
それはどんな神なのだろう。
俺はまた思った。
きっと祭りの日。
それがわかるはずだ。
明日。
明日で全てがおわる。
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