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祭り 9
少年は泣いていた。
また配信の時間が来たからだ。
今日は酷くされるのがわかっていたからだ。
酷くと言っても主に精神的にであり、肉体が損傷されるようなことはことにはならない。
後でその内臓が売られることに、もう少年達は気づいている。
身体を損なうことを嫌うからだ。
なんなら栄養剤すら打たれてる。
女の子が子供を産む機械にされているように。
自分たちもモノとして最後まで消費されるのだと。
女の子達より自分達は先に殺されるだろう。
それがより悪いとは思えない。
閉じ込められ、人工授精で子供を産まされ続けるのと、内臓として売られるために数年でサッサと殺されるのではどっちがマシかなんて考える方がくだらない。
だから、名前を唱えてしまう。
ユウタ
ユウタ
それでも、ユウタと過ごした日々が1番楽しかったからだ。
どうなるかわからなくて、流されるままに生きてきて、どう生きればいいのかわからない。
居場所もなく、誰にも求められず、何もない。
裏切られたとしても、それでも。
いつわりだろうが何だろうが、ユウタがくれた日々だけが、少年達や少女達には喜びだったのだ。
このマンションにいない、『売られ』なく、死んだ仲間は、(カナやセイヤのように)ユウタに殺されたか、追い詰められて自殺したのだと分かっていても。
それでも。
少年少女達はユウタをもとめた。
それしか。
幸せな記憶がなかったから。
完全な過去になったもっと幼い日にはあったかもしれないけれど。
先に続くと思ったような楽しい記憶は。
そこだけで。
よろこんでユウタのために身体を売った。
ユウタのためになることが悦びだった。
必要にされてると信じて、居場所があって。
咳止めクスリと酒のせいだけではない高揚感があって。
そこでは確かに生きていたのだ。
だからだから。
少年は丸裸のまま閉じ込められている部屋から無理やり引きずられていく。
ある程度の暴力は許されている。
内臓や骨に傷がつくようなことは許されないけれど。
むしろ、突っ込む行為の方が優しく行われている。
内臓を破損してはいけないからだ。
吊るして、縛って、加減をしながら首を締めて犯すくらいは。
大事な演出なのだ。
また15、6の子供が犯されるのが大好きな視聴者のための。
「嫌だぁ・・・」
少年は泣いた。
仲間たちは無表情のまま壁を見つめるだけだ。
逃亡防止に服まで奪われている。
「始まったらどうせめちゃくちゃ感じるくせに」
男は引きずりながら笑った。
世話係、そして、配信係だ。
少年達を犯す竿役でもある。
3人いたが、何故か最近は2人になった。
泣いてはいるが、もう抵抗はしない。
諦めだけがその身を満たしていた。
この世界に助けなんかないのは知ってる。
どんなに祈っても、誰も救いなど来てくれない。
優しくしてくれたのは自分達をここに売り飛ばした人だけ。
「ユウタ・.・・ユウタ・・・」
それでも呼んだ。
イクときにだってよぶ。
だって、他には何もない。
「まだ呼んでやがる」
男は笑った。
もう1人は撮影と配信の準備を終えて居るのだろう。
あの部屋で今日はどんなことをされるのか、させられるのか。
もう嫌なのに。
知ってる神はユウタしかいない。
「ユウタぁ・・・!!!」
泣きわめいた。
男がわらう。
「泣いて叫んでくれよ。その方が今日はウケる」
その部屋の床に叩きつけられた。
もちろん加減して。
もうカメラは回っているのだろう。
男は乱暴に少年の踵をつかんで足を持ち上げた。
悲鳴を上げる。
乱暴に性器を掴んで扱かれた。
ほぼ感覚を遮断されている身体は、そんな刺激にも反応する。
「いやぁ!!ユウタ・・・助けてぇ!! 」
少年は泣いた。
前髪をつかまれ、カメラにむかって顔をみせつけられながら。
「ちゃんとイケよ。それから後ろを可愛がってやる」
男が低く笑った。
楽しんでいた。
惨めだった。
こんな風に使われて、ころされて、内臓を奪われる。
そんな人生
こんな人生。
ユウタ
ユウタ
知ってる神はその名前だけ。
必死でそれでも、その神をもとめた。
だって、誰もたすけてなんかくれない。
それだけは、ずっと知っていた。
勃起した性器から白濁をカメラに向かってほとぼしらせ、泣きながらイった。
ロープを男が手にしているのに怯える。
吊るされる?
縛られる?
壊れない程度に殴られる?
喉をつかまれた。
またユウタの名前を呼んだ。
それしかないから。
その時だった。
少年の首を掴んでいた男の太い腕が落ちた。
そう、喉を掴んだ手首はそのままに、床へ向かってぶら下がった。
血は少し遅れて迸った。
少年の白い身体に暖かな血が降り注ぐ。
熱い血の中で少年は目をただ見開いた。
悲鳴をあげたのは少年ではなく、少年の喉を掴んでいたはずの男だった。
腕が付け根から切り落とされていた。
「自分を地獄に落とした奴に助けなんか求めるんじゃないよ。ちゃんと呪え、憎め!!ソイツを愛していいのはソイツをその手で殺した時だけさ」
ハスキーな女の声がした。
女はいつのまにかそこにいた。
女はつまさきに刃がついている靴を履いていて。
それが男の腕を切り落としたのだとわかった。
男は血が流れる腕の断面を必死で抑えながら絶叫していた。
「助けに来たよ、いいかい、助けは来ることもあるんだよ!!」
女は、ナツは、少年の耳元に口をよせ、ひどく優しくそう言った。
少年の首から、男の腕を外してやりながら。
『助け』その言葉の意味を少年が理解するのにはしばらく時間が必要だった。
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