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祭り 10

ナツは裸の少年の頬を優しく撫でた。 見開いた目を見つめる。 「信じられないだろうけど、助けに来たんだ。いいかい、助けが来ることだってある。だから立ち上がって逃げるんだ。いいね?担いでなんかやれない、あんたはあんたの脚で歩くんだよ!!」 ナツは言い聞かせた。 「・・・たすけにきた?」 呆けたように少年はいう。 信じられないのだ。 そんなものがこの世界にあるなんて思わないのだ。 身体を売ってる子供たちの前を警察官が平然と通り過ぎる世界で生きてきたのだから。 そしてナツもそうだった。 ナツの父親がこわれてしまっていることを、誰もが気付いていたのに、誰もがナツをすくおうとはしなかった。 母親でさえ。 でも。 ナツには助けが来た。 あの日。 少年と犬が、危険を顧みず、ナツをたすけに飛び込んできた。 ナツは救われた。 助けに来てくれたから、父親を救えた。 父親を解放したのだ。 そんなものに成り下がってしまった、愛しい愛しい父親を。 愛するために殺した。 殺されてしまったなら、愛せないからだ。 娘を殺すようなモノに父親に落ちぶれさせるわけにはいかなかった。 誰かが自分を助けてくれる、そんなことがある。 それはナツの希望になった。 「でも、ここから逃げるのはあんたの脚だよ、立ちな!!」 ナツは少年に言い聞かせた。 腕を切り落とされ、のたうちまわる男が喚いた。 ナツは舌打ちして、男に近寄り、側頭部を殴って気絶させた後、その腕の付け根を少年を縛るためにあったロープで縛って止血してやった。 殺さないと約束したからだ。 もう1人。 隣のブースで気絶している男がいる。 お世話係のもう1人だ。 ナツがここに侵入してすぐ気絶させた。 ソイツはまだ何も切り刻まれていないので、五体満足だが、まあ、いずれ。 この男達はナツの恋人の死に関わっている。 身体の1部くらいは差し出してもらわないと。 殺さない、と約束はしたけれど。 よろよろと立ち上がる少年をつれてナツは少年少女達が閉じ込められている部屋に向かう。 全員で6人。 少年が3人と、妊娠している少女が3人。 ナツは服ももってきていた。 にげだせないように裸にされていることも分かっていたから。 さて。 子供たちを連れてここから出るとして。 防犯カメラは壊したが、いや、壊したからこそ、子供達を逃がしたことがバレるはず。 ここで行われていることを良く知らなくても、半グレ組織の連中が追ってくるのは間違いない。 ナツの任務は、無事に子供達を逃がすこと。 「逃がし屋の本領発揮といこうか」 ナツは呟いた。 ナツは助けが来たあの日から。 少年と犬が助けに来た日から、 誰かの助けになると決めていた。 裏家業に堕ちても、「逃がし屋」を選んだのは、誰かを逃がしたかったから。 自分が逃げられたからこそ。 暗闇にさした光を忘れるはずがない。 救われたのだ。 なのに何一つ返すことなどできない。 もう生きる場所が違う。 だから。 誰かを逃がして応えたかった。 助けてくれたことに。 これは。 初恋に捧げているのだ。 ナツはいつだって誰かを逃がす。 それはあの日の少年と犬に捧げる贈り物なのだ。

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