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祭り 12

「ナツは?そうか。脱出したか。ナツなら大丈夫だ!!」 俺は男からの電話に喜んだ。 たこ焼きを焼きながら肩と顎でスマホを挟んだまま話している。 夜店は俺まで店を手伝わないといけない位、忙しい。 愛想笑いどころか、仏頂面で突っ立っているだけの内藤がやってヨーヨー釣りがなぜか大人気である。 相変わらず、肉食系の女の子達が群がっている。 内藤はますますフキゲンだが、女の子達はうっとりしたまま、有り金すべてをヨーヨーに注ぎ込んでいた。 そんなにヨーヨーなんかいらないだろ。 ちなみに内藤はホストの店を経営する人にスカウトされてた。 「こういう子が伝説になる」と。 分かるけど。 内藤のためなら何でもする頭がおかしいのがゴロゴロしてるからね。 ドクターを筆頭に内藤に隣に据わってもらうためなら、それだけのために、アイツらいくらでも金を使うだろう。 喜んで。 だが内藤がそんなことするわけがない。 ヨーヨーを売るのも嫌そうなのに。 女の子達に嫌悪を隠そうともしない。 内藤は肉食系の男女がとにかく嫌いなのだ。 1番キライなのがドクター。 分かる分かる。 でも内藤も、この祭りの最後にある地車は楽しみにしていた。 内藤は俺の街の人間ではないので、地車は引くことができなかったからだ。 内藤の町の祭りは小さい。 地車はない。 夜店があるくらいで、でも神社で冷した梅酒が振る舞われていたな、そう言えば。 それが有名らしい。 でも、俺たちあの頃未成年だったしな。 とにかく。 内藤も祭りに憧れていたのだ。 ナツにも祭りをみせてやりたい。 でも、ナツは逃げるという仕事を引き受けてくれている。 子供達と一緒に逃げる。 その間に俺たちが組織とユウタを潰して、子供たちが逃げなくてもすむようにするのだ。 逃がし屋のナツにしか出来ないことだ。 「ちょっとまて」 俺は電話の向こうからの男の言葉が聞こえなくなる。 いや、聞こえてるけど、聞きたくなかったのだ。 「あの女はもうお前の前に現れねぇ」 男の言葉は衝撃的だった。 「殺したのか!!」 思わず言ってしまった。 いや、危惧はしていた。 いたけど、まさか。 まさか。 「殺し損なった。頭をぶち抜くつもりだったが車の窓ガラスしか壊せなかった。あの女、大したもんだぜ。俺から生き延びるヤツはほとんどいねぇ。まあ、見逃してやったんだけどな」 男は大嫌いだろうナツを心の底から褒めていたが、そういう問題じゃない。 「なんでそうなる!!」 俺の悲鳴。 男とナツを一緒に組ませたのはやはり間違いだったか? 「俺が殺そうとしたからもう会わないんじゃねぇよ。あの女、お前といれないだけだ。子供たちは腹の中の赤ん坊もまとめて任せとけってさ」 男の言葉に嘘はない。 この男は嘘をつかない。 そして、ナツが俺と居れないことも俺は分かってた。 俺はナツが居ることを許されなかった世界を思い出させるのだろう。 ナツは。 そこで生きていくと決めているから。 ナツ。 ナツ。 また行ってしまうんだな。 胸が痛んだ。 刺すような目をした、刃物のような少女。 俺の少女。 俺の初恋。 あの胸の痛みを忘れることなどない。 「・・・・・辛いか?」 男の声は低くて。 深くて。 感情を殺した声なのに。 切なかった。 「辛くない、と言ったらウソになるけど。でも、俺にはお前がいるだろ?」 それは本音だった。 「・・・・・・あの女を殺さなくて良かったぜ。ただ、俺も13のお前に会いたかった。そしたらあんな女に渡さねぇ」 男の言葉に苦笑する。 いや、あの歳でお前に出会っても。 恋にはならないだろうに。 それも、また現実だ。 「13のお前とやりたかった。どんなお前とでもヤれる。ガキには興味ねぇが、お前なら別だ」 なんか変な方に男がいってる。 怖い。 こわいんですけど。 ガチで怯える。 「あんな女に心を奪われる前に、オレを刻みつけてやのに、奥までぶち込んで!!」 いや、13の俺はお前のどデカいのを受け入れることは無理だとおもいます!!! ころさないで!!!! 想像するだけで震えた。 ホラーだろ!! タイムマシンだけは発明されて欲しくない。 でも。 男は俺の全部を欲しがっているのはわかった。 「お前だけだよ、今もこれからも」 それだけは確かだった。 お前みたいなヤバい奴。 俺がちゃんと抱きしめてやらないと。 「・・・・・・あいしている」 不器用につぶやかれ、思わず笑った。 「愛してるよ、俺も」 俺はそう言って電話を切った。 たこ焼きを焼く。 時間までは子供たちの祭りを盛り上げるのも仕事だ。 この祭りをナツにもみせてやりたかったけど。 追わないよ。 どうか自由に。 ナツ。 ナツ。 さよなら。 俺の初恋。

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