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祭り 13

作戦はシンプルだった。 テロリストにされた人達がいる。 ユウタについて来てしまった人達だ。 ユウタはカウントダウンCDの中毒にしたと思っているが、実際は違う。 ドクターにテロを行うようにそそのかされたのだ。 そして、良心をごまかすために、辛いふりをしている。 わかる? ユウタはカウントダウンCD中毒になった連中が嫌々テロ行為に参加していると思って、そこに快感を得ている。 でも実際は、テロをしたい連中が喜んでしているだけ。 金髪男と同じだ。 本当はマゾヒストだった男が、「嫌だ」とおもいこみながら本当は喜んで被虐を受けている。 それがユウタにはわからない。 ユウタには嘘がわかるからこそ。 でもそれは、本人達が自分自身を騙している場合には別なのだ。 潜在的なマゾヒストである男が「自分はこんなのは嫌なんだ」と思い込んでいることまでは嘘として見抜けない。 ユウタの嘘を見抜く力は、本人がそれを嘘として自覚している時に限るのだ。 ユウタは瞳孔の収縮や眼球の位置、僅かなサインから嘘を見破っているのだから。 だから、今回もテロを行わせる連中が、実は喜んでテロを行っているとはわからない。 ユウタには分からない嘘、なのだ。 「ユウタが連れてくる連中は、あのガキども含めて世界を恨んでいるんだよ。壊せる機会があるなら喜んで壊すだろうな」 ドクターは笑う。 ドクターはカウントCDなんか使わなかった。 あんなのそれこそ嘘だからだ。 ドクターは誘導しただけだ。 彼らが「本当は嫌だけど」「この世界を壊すことができる」という考えに。 凄腕の詐欺師は、本当に欲しがっているものをその相手に与えることができる。 だから、ドクターは絶好の機会を与えたのだ。 「いいのかな、そんな人の心を操って」 俺はさすがに悩んでそう言った。 ドクターは虫でもみるような目で俺を見たんだよね。 「操ってない。本当に嫌なら断るはずだ。それに、本当には誰も殺さないし。こういう連中は終わった後に自分に言い聞かせるさ、【誰も死んでない、良かった】と本当はそれを望んでいたくせに、な。それで全部忘れて今まで通りみじめに生きていくさ」 ドクターは言い切る。 ドクターに言わせるとこの世界にはチャンスさえあれば世界を壊したい人間達が沢山いることになる。 色んな障壁がそれを阻んでいるけれど、それらをぜんぶ取り除いて、良心の呵責も取り除いた(殺されるかも、とか強迫されて等)ならば、世界を壊すことを選ぶのだと。 信じ難いんだけど、でも確かに。 泣きはしたけれど、奇妙なまでにあっさりと。 彼らはテロリストになることを受け入れた。 この人達を、この騒動の後そのままにしていていいのか、とドクターに聞くと、 問題ない。 とドクターは言い切った。 また多量殺人をする度胸はないし、チャンスもない。 今までのように破壊願望を心の奥に沈めて惨めに踏みつけられて生きていくだろう、と。 うーん。 うーん。 俺は悩んでいる。 だが、もう始まった。 テロリストになった彼らは時間に指定された場所に指定されたモノを仕掛ける。 そしてそれは時間になったら発動する。 テロリスト達にはそこから発生するのは毒ガスだと説明しているし、それを仕掛けた場所より高い建物に上がれと言っている。 が、実際は色の着いた無害な煙だ。 街は騒ぎになるが、それで人が死ぬことはない。 シブサワさんを通じて、街には情報を流している。 ユウタが何かをやらかす、と。 そして、それを無害化していることも。 ユウタは見張られている。 ユウタは何かが始まった時に、本当の姿を示すだろう。 もう女装して、事務所で連中と何かをしていた位は確認しているはすだ。 この街を動かしている人達は甘くはないからだ。 何かを起こしたのが、ユウタだと示せたらそれでいい。 ユウタを裁くのは街だ。 街を壊すことを望んだユウタをどうするかは街が決める。 警察じゃない。 俺たちは殺しはしない。 だが、街がどうユウタを裁くのかは俺たちの知ったことではない。 善悪ではない。 街には全てが存在している。 だが、街は。 街の全てを破壊するものを許さない。 そして、ユウタに協力してきた半グレ組織も、裁かれるだろう。 人身売買をリークした。 警察にではなく、街の人々に。 そんなことをこの街でやられてしまうのは、街としては困るのだ。 児童人身売買を組織的に行うのは困る。 それは大事だ。 半グレ程度の連中が扱えるわけがないことだ。 人身売買と変わらないような酷いことをしている連中も、ホンモノの人身売買は不味いとわかるのだ。 そこそこ馴れ合っている警察も、それを見逃すわけにはいかない。 街には一斉捜査が入るだろう。 巻き添えを喰らうわけにはいかない、という理由だとしても、街にはルールがあり、半グレ達はそれを無視していたからだ。 祭りの中で、街は終わりへ向かって動き出しはじめてた。

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