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対決4
落ちる。
でも俺は彼女を離さなかった。
地面へ向かう寸前で屋上のへりをつかんだ。
凄まじい衝撃が肩に来る。
だが耐えた。
耐えるさ。
男だぜ、俺は!!
さらに勢いでビルの壁面に叩きつけられても耐えた。
「ドクター誰かを早くよこして!!腕1本でぶら下がってるんだよビルの屋上から!!」
俺は叫んだ。
「なんでそうなる!!わけわかんねーよお前!!」
ドクターは叫んで、でも近くにいる誰かに指示を出していた。
でも。
正直。
助けは求めてみたが
持ちそうになかった。
腕1本でぶらさげている彼女。
かなり体重ありますね、失礼ですが。
もう数分しか持たない。
来るまでは持たないのは確実だった。
根性ではどうにもならない。
でも。
死なせない、
俺の腕にぶらさがる彼女を見た
もうその目には虚無はなく。
驚きだけがそこにあった。
彼女を支配していた虚無はもういない。
なら、彼女は生きるべきだ。
だから彼女を殺さない方法を数秒で考えた。
ぶら下がった足もとに窓がある。
なにかの店だろう。
思い切り蹴った。
誰かいてくれ!!
窓があき、悲鳴が聞こえた。
そらそうだ。
女性が窓の外にぶら下がっているんだからな。
おそらく、BARで。
多分、このビル的に、ゲイバーだろう。
朝まで仕事して、今日休みだからそのまま寝ててこの時間までここにいたんだろう従業員が、窓から顔を出して俺を見てまた悲鳴を上げる。
ありがたいことにジムで鍛えているんだろう、いい体格をしていた。
この人ならいける
「その人を助けてくれ!!」
俺の言葉をすぐに理解してくれた。
彼女へ腕を伸ばす。
太い腕で彼女を抱きとめくれて。
「離していい!!」
そう叫んでくれたので、俺はやっと彼女の手を離した。
室内に彼女は引き込まれた。
助かった。
彼女は。
助かった。
でも。
もう俺の腕は限界で。
でも。
死ねない。
俺が死んだらいけないヤツがいるからだ。
あんなヤバいヤツ。
置いていけるか。
俺の可愛い男。
アイツは俺がいないと。
いきおいをつけて身体を振れば。
窓の中に飛び込めるかもしれない。
位置が高すぎて、彼女のようにあの人に抱えて中に引き込んでもらうわけにはいかないのだ。
あの人まで危険になる。
「上に行くまで待ってろ!!」
そう叫んでくれたが、もう数秒もたないのは分かってた。
死ぬわけにはいかない。
あんな危ないヤツが。
俺がいなくなったらどうなるか。
それに何より悲しませるわけにはいかない。
俺だって。
あの男を。
俺は決断した。
壁を蹴って反動をつけた。
1度しか出来ない。
失敗したら死ぬ。
だが死ぬ気はない、1ミリもだ!!
身体が壁に戻ってくる瞬間に手を離した。
開いた窓に脚が入った。
背中、胸、と順調に窓を通り抜け、いける、と思ったその瞬間、額が窓枠にぶつかった。
ヤバい。
頭をうちつけられた痛みより、恐怖を感じた。
頭から地面へ向かい始めたからだ。
せっかく胸まで室内に入ったのに、今度は窓の外に頭から落ちはじめて・・・
俺は窓枠に手を伸ばす。
掴め掴むんだ。
置いていけない。
俺の可愛い男を
俺の指は窓枠をつかみそこね、それでも俺は諦めず、何かしようと何かしようとしようと、生き残ろうと・・・
炎に焼かれている指が俺の指を掴んだ。
焼かれるような痛みが走った。
腕から指先までその炎が焼いたのかとおもったが、単に、とうとう腕の筋がイカれただけなんだと思う。
「置いて行くなんて許さねぇ」
憤怒の表情の悪魔が俺の腕を掴んで片手で軽々と窓からぶらさげていた。
痛くて泣く。
筋じゃなくて肩抜けてるわ、コレ。
成人男性の身体を小さなぬいぐるみであるかのように片手で室内に引き込み、男は唸った。
熊が獲物を前にしたらこんな風に唸るのでは
怒ってるな。
うん。
めちゃくちゃ怒ってる。
だけど、すぐに抜けた俺の肩を入れてくれた。
簡単に。
でも痛かった。
そして抱きしめられる。
熱い身体だ。
俺のモノである身体だ。
「置いて行くなんて許さねぇ!!」
怒鳴られた。
窓がふるえて、部屋が震えた。
助けられた彼女も、彼女を助けてくれた従業員も、部屋の隅で直立不動で震えていた。
生きながら焼かれてる男が飛び込んできたんだからそらまあね。
憤怒の男は。
俺の顔を覗き込む。
その顔はなまさに悪鬼で。
でも、男が震えていて。
「置いて行くつもりなんかなかったよ・・・ごめんな。怖かったな・・・」
俺は男の背中を撫でた。
男はキツく俺を抱きしめて離そうとしない。
「死ぬ時はちゃんと連れて行くからさ・・・」
俺は本気で言った。
「絶対だ、絶対だ、絶対だ!!」
俺が唸った。
匂いを嗅いで、俺の首筋を舐めて噛んで。
俺の生命を確かめていた。
「悪かった」
俺の言葉に男は強く首筋を噛んできて。
俺は男の背中を優しく撫でた。
怖がらせてしまった。
罪悪感が止まらない。
「アンタ達、何?」
震える声で従業員が聞いてきた。
そうそう。
時間がないのだった。
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