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対決 6

俺はまず、子供達の元に戻らなきゃいけない。 祭りを続けなければ。 祭りこそが、ユウタから子供たちを解き放つ儀式だから。 俺は子供たちをユウタから解き放たなければならない。 自分で歩いて、立って。 自分を簡単に売り渡さないで欲しいから。 俺は従業員の人にお礼を言った。 何が起こったのかもわからない従業員の人は戸惑ったまま俺の礼とりあえずうなづいいてた。 そして俺は女の人を見る。 力なくバーのカウンターの椅子に座ってる。 でもその目は確かにこの世界を見つめてる。 大丈夫。 この人は自分でテロを止めた。 もう、虚無はない。 この人は生きていける。 「お姉さん、止めてくれてありがとう」 俺は心から言った。 この人は。 幸せじゃなかっただろう。 それは理不尽だっただろう。 でも、人を巻き込むような呪い、不幸にして苦しめる呪いそのものになることを止めたのだ。 憎いモノを前にして。 銃を渡され、その引き金を引かないことは勇気だ。 勇気なんだよ。 それを選べたこの人に敬意を。 ドクターが言っていた。 「人間は引金を引いてもたまたま弾がでなかっただけで、『殺す気は無かった』と思い込んでいるだけさ」 そうなのかもしれない。 たまたま殺せないまま、殺す力がなかったことを人間は「良心」と言ってるのかもしれない。 でも、この人は自分で止めて、俺に装置の場所を教えてくれた。 「本当に、宙にまで飛び出してくる人がいるなんて。助けるために」 彼女は泣いた。 俺は頭を掻く。 考え無しだっただけだ。 死ぬ気はなかったし。 「誰かが捕まえてくれたから、生きれる気がするの。ありがとう」 彼女の微笑みは。 地味な彼女の顔を美しくみせた。 生きてみる。 生きてくれる。 そう思えて。 俺はなんだか嬉しかった。 「お姉さん、お元気で」 俺は彼女に頭を下げて、走り出した。 祭りを終わらせる。 そして、最後の対決がある。

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