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対決 7
広場からブルーシートを外され、通りに引き出されてきた地車は美しかった。
廃車になった小さな軽自動車を利用して子供たちが作り上げたその地車は、俺が知っているどんな地車とも違う。
「サイバースチームバンクなの!!」
デザインした女の子が自慢げに言う。
なんだかわからないがそうらしい。
協力してくれた木工所の職人さん達がノリノリになったのもあって、廃材と捨てられた部品を組み合わせた不思議なデザインのそれは、新しくて懐かしい不思議なモノになっていた。
車の天井やボンネットを切り取られ、そこに流線型に削られた木製の台座がコードや部品とともに絡み合う。
笛や太鼓や鐘の鳴り物の代わりに、アンプがとりつけられ、俺には良くわからないヒップホップが流れていた。
俺はそう、音楽には疎いのだ。
わからない。
わからないけど、刻まれるリズムとビートはなんかノレたし、子供達も踊ってる。
子供たちは自分達が作り上げた地車を皆で引く。
カラフルなロープがなん本も地車に繋がっていて、それを子供たちが引く。
屋台はもう終わりだった。
みんなで引くことになっていた。
地車の上の台座や、車のボンネットだった場所にも子供たちが乗って踊って、リズムに乗って腕を突き上げている。
引きながら笑う。
踊りながら引く。
時々止まりながら、踊ってまた引く。
子供たちは相変わらずのファッションで。
男の子も女の子も化粧して、なんか病んでみるみたいに退廃的で。
夜に憑かれて闇に溶けてるようだった、通りの子供たちとしての姿は変わらない。
でもそこにはもう咳止め薬や酒と、逃げてるような馬鹿騒ぎの、金属みたいに軋む笑い声はない。
子供たちは柔らかく笑ってた。
はしゃいで笑う子供だった。
通りを子供たちと子供たちの地車がゆくっりと進んでる。
爆音のリズムと、躍る少年少女達。
捨てられた車は美しくかざられ、神の代わりに子供たちが交代でそこに載り、踊るのだ。
通りを行くひとたちも、その光景を笑顔で見ていた。
喰らうために子供たちを狙う視線でも、疎ましいものを見る目でも、無関心で見ようともしない目でもなかった。
その日の通りは子供たちのためにあった。
俺は参加しなかった。
これは子供たちの祭り。
子供たちだけの。
子供たちは成し遂げた。
これは全部子供たちの力だった。
俺は広場からゆっくり進む地車を見届けた。
通りをゆっくりすすみ、このあたりをまわったら戻ってくるだろう。
そしたら、祭りは終わる。
終わるのだ。
「地車には神様が載ってるんだよね。あの子達も神様をみつけた。それは、あの子達自身だったんだよ」
俺の隣りで内藤が言った。
内藤が地車に拘ったわけがわかった。
内藤は子供たちに「地車には神が載る」 ことも説明していた。
子供たちが決めたのだ。
神様はいらない、と。
神であるユウタに支配されているはずの子供たちが。
それは自覚はしていないけれど、ユウタから逃れることを決めた子供たちの選択だった。
「あの子達は少なくとも、もう。自分から望んで支配されたりはしないよ」
内藤の言葉を俺は信じることにした。
子供たちの未来がすぐに変わるなんて思ってない。
子供たちは身体を売りこの通りへ逃げることを止めないかもしれない。
でも。
少なくとも。
全てを一人の人間のために委ねたりはしない。
何か。
何かが。
未来が。
変わることを俺は願った。
「じゃあ、行ってくるよ」
俺は内藤に言った。
「気をつけろ」
内藤は俺を止めはしなかった。
でも心配してくれていた。
ありがとう、親友。
「勝つのは俺だ。勝てるわけがないんだよ、ユウタは」
俺は断言した。
負けるはずがない。
なあ、ユウタ。
お前が間違っているんだ。
誰もお前を欲しがっていたわけじゃなかっんだよ。
なあ、ユウタ。
お前は騙してただけだ。
お前じゃなかったんだよ。
子供たちが欲しかったものは。
俺はそこへむかった。
全てをおわりにするために。
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