114 / 118

対決 10

俺が選んだのはマンホールだった。 火薬とかを手に入れて作ったにしても、そんな量は手に入らないだろう。 材料がないからこその圧力鍋なんか使った爆弾なのだ。 だから釘とかをぶち込んで飛ばすことで殺傷力を上げているのだとしたら、マンホールの中で爆発させればいい。 少なくとも地上で爆発させるよりは・・・ マシ、だろ いつもの思いつき、行き当たりばったりだ!! これでやって来れたんだこれでいける!! すぐに マンホールを見つけた。 持ち上げようとする、 持ち上がらない。 いや、待ってくれ。 そうか、素手では、何か器具が・・・ いや、時間がないな。 アウトか? アウト? もう数十秒しかなかった。 俺は爆弾に覆いかぶさろうとした。 俺の身体で少しでも被害を食い止められないか・・・ 俺は弾き飛ばされた。 そして、瓶の蓋でも開けるかのように、マンホールが軽々と開けられ、片手でそれなりの重さがある圧力鍋爆弾が持ち上げられ、マンホールに叩き込まれた。 燃えるその腕は、即座にマンホールの蓋まで閉めていた。 次の瞬間、俺はもの凄いスピードでマンホールから離れていくのがわかった。 熱い身体が俺をつつんでいた。 俺の男が俺を助けに来たのだ。 いつも悪いな。 ゴメン。 心の中で謝った。 男が通りの店に俺を抱えて飛び込むのと、爆発音がしたのは同時で。 建物は確かに揺れた。 マンホールの蓋が吹き飛ぶのと、キラキラした何かが吹き上がるのが見えた。 釘だ。 それは、ゆっくり地上に降り注いでいったけれども、その落ちる範囲に人はもういなくて。 マンホールが地面に叩きつけられる音を聞き、降ってくる釘を窓の外にみながら俺は。 俺は。 安堵して。 俺を喰いいるように見つめる俺の男を見上げて。 男の腕に抱かれながら。 意識がとおくなっていく。 目を閉じてしまう。 情けない話だけどもうダメだ。 ユウタ。 俺の勝ちだ。 お前は1人で行くんだよ。 負かされてみじめなままでね。 1人で行け。 お前にはだれもいない。 誰もお前を本当は求めてない。 お前はお前の醜さゆえに1人で、1人ぼっちでいかないといけないんだよ。 可哀想だな。 全てを見下すお前こそ、憐れな呪いでしかないなんて。 爆発の後に、何かが落ちる音が聞こえた。 何か? いや、誰かだな。 ユウタは捕まることよりそれを選んだのだと、俺にはもう分かっていた。 どんな気持ちで飛んだ? それは悔しさだけか? それとも呪いに成り果てたお前には、何も感じること等出来なかったか? 俺はお前を理解しないよ、ユウタ。 お前はただの呪いだ。 この世界が生み出した。 呪いであることを選んでしまった以上、お前はもう他の何にもなれないんだよ。 「おい、待て、寝るな!!何でも・・・何でもして良いんだろ・・・」 男がグルグルと涎をたらし、唸りながら叫んでいるが。 さすがに今は無理です。 許して下さい。 目を醒ますのが怖い。 お前。 お前。 俺をどうする気なの? 俺は震えて怯えて。 でも、なんかゾクゾクとしてて、期待もしてて。 俺はとにかく意識を飛ばして逃げることにした。 いや、逃げられないんだけどね。 この腕は俺を捕まえて離さない。 ・・・離さないでくれ。 「絶対に死なせねぇぞ・・・置いて行くなんて許さねぇ・・・」 男の言葉にまたごめんと思う。 死なせないでくれ。 俺を守ってくれ。 お前とずっと居られるように。 生きたいんだ。 お前とだから。 死ぬ時は・・・連れていくよ。 俺は犬みたいにお前を置いていったりはしないから。 俺は意識を手放した。 夢には犬がいて、俺にいつものように視線だけて語りかけてきた。 「置いていって悪かったよ、相棒。でも。オレがいなくても悪い人生じゃないだろ?」 犬の言葉にうなづく。 ずっとずっと愛してるよ。 死んだくらいじゃ、誰も俺とお前の間を裂けない。 でも。 そう。 悪くないよ。 お前の代わりじゃない。 お前と俺みたいに完璧な関係じゃない。 歪で病んでるかもしれないけど、それでも確かに愛する誰かが今はいる。 犬、お前のいない世界は完璧じゃない。 でも、俺はこの完璧じゃない世界も愛してるんだ。 犬はいつも通りクールに尻尾をふった。 わかってる、と。 愛してるよ。 俺は再び犬に告げたのだった。

ともだちにシェアしよう!