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エピローグ

とりあえず結論から。 ユウタは死んだ。 通りで子供達に身体を売らせていた上に、爆弾で子供達を殺そうとした恐ろしい少年として、ユウタは有名になった。 子供達には良かった。 自分達が何をされていたのかが明白になったからだ。 噂で「ユウタはやめとけ」みたいな忠告をされてた時は、「良い奴だよ、オレ(あたし)は知ってる」みたいに言ってた子供達も、ネットや周りから爆風のように吹き込まれると信じた。 ユウタの洗脳は深い。 だがそれは子供達が集団でそれを信じているという、信仰に支えられていたのだ カルトでしかない。 カルトの洗脳から抜け出すには、忠告なのではなく、「そんなもの信じられるわけかない」という現実の中にいることの方がいいのだ。 ユウタをあそこまで信じたのも、ユウタによって囲われ、同じような子供達の中で「ユウタこそすべて」と思わされたからだ。 今は子供達が受ける情報のすべてがユウタを否定するものしかないわけで。 まあ、ハッキリ言って逆洗脳みたいなモノだが、子供達は地車という儀式の中で、無意識にユウタを切り捨てるということをやってのけていたので、問題ないと思う。 子供達はユウタを捨てた。 元々、彼らが欲しかったのはユウタなんかでほなかったのだ。 ユウタは子供達が欲しいのは自分だと思わせただけだ。 沢山の子供達を操り、死に追いやり殺したことは、問われることがなかった。 それはもう。 街の秘密の1つになった。 でも、子供達を売り物にしていた連中は多分もう死んでる。 どこでどうなってしまったのかも、街の秘密になるだろう。 ユウタの両親は恥ずべき者として、ユウタを扱い、葬式すらしなかったという。 墓にユウタの遺灰を入れることも引き取ることさえ拒否したと。 誰もその死を悼むものはいなかった。 誰1人。 「いい穴だったんだけどなぁ」 違う意味でドクターが惜しんでいたけれど。 だから。 俺はユウタのために屋上に花を置いた。 呪いそのものになる前は、人間だっただろうから。 呪いになる前の人間だったユウタに。 何でそんなモノに成り果てる? そこに行ってしまっても何もないだろうに。 でもそうなってしまった。 そうなってしまったんだ。 なんて哀れな生き物。 だが殺された子供達のことを考えたなら、哀れみすら与えるべきではないのかもしれない。 だが。 そうなってしまう前の少年はいて。 その少年を救うことが出来たかもしれないのだ。 今目の前にいる誰かに手をさしのばすのが偽善だなんて俺は思わない。 それはそうなってたかもしれない俺で。 ユウタもまた、そうなっていたかもしれない俺なのだ。 「誰をどんなに傷つけようと、お前は1人で誰からも求められないんだよ。哀れだな」 俺は花束をユウタが飛んだ場所に置く。 「早く見つけてやれたら良かったな」 そう呟いた。 そんなお前になる前に。 同情とか哀れみとかじゃない。 街は最悪だ。 弱い人間を狙ってむしり取ってくる。 その半面、誰かを助けようと手を伸ばす人達がいる。 それは単なる善行じゃない。 自分を助けている。 誰かを助けるシステムが、街を支えているのだ。 そして、助けられた誰かがまた誰かを助ける。 崩れて腐敗して呪いそのものになりそうなのは街も同じだ。 街が呪いになったとき、それを関係ないとしていたひとたちもその呪いを平等に受けるだろう。 それを食い止めているのは、さし伸ばされた手を取る人々なのだ。 「趣味だよ趣味」 シブサワさんは笑う。 ホームレスへの炊き出しや、自立支援を行いながら。 シフサワさんの商売は金貸しで、そこは厳しくやってるけれど、いや、だからこそ、ボランティアがシブサワさんを【もたせて】いるのかもしれない。 子供達もシブサワさん達のゴミ拾いや炊き出しを手伝うようになった。 身体を売るよりはアルバイトをするようになった。 この先、夜の商売につくならつくで、そのまんまじゃやっていけないよ、とシブサワそんのとこにボランティアで来てる、夜のお姉さんやお兄さんたちに教えられている。 学校に戻った子達もいる。 商売や企画に興味を持った子も。 通りでフラフラしてるのは相変わらずだけど、咳止め薬や飲酒で騒ぐのではなく、集まって話をすることのが目的みたいだ。 まあ、大きく何かが変わったわけじゃない。 でも確かに何かは変わってる。 街を自転車でバイトで走る俺に、子供達は手をふる。 バイト帰りに通りによって話したり、たまに子供の遊びで遊んだりする。 シブサワさんとこのボランティアに俺も一緒に参加したりする。 内藤はあっさりしてて、子供達のところへ顔を出そうともしないけど、ボランティアに俺と行く時には子供達に群がられている。 気にかけて、心配している俺よりも大人気なのが納得いかない。 切ないぜ。 シブサワさん経由で、街の人達とも沢山知り合いが出来て。 ここも、もう1つの俺の街になるのかもしれない。 そうそう、ドクターは嫌われながらも、相変わらず内藤に付きまとっている。 諦めりゃいいのにね。 犬のことを考える。 考えない日はない。 俺の相棒。 ナツのことも考える。 心配はしてない。 永遠の俺の少女。 俺の初恋。 犬もナツも俺を置いていく。 仕方ない。 犬もナツも俺を傷つけたいわけではなかったのだ。 でも失う喪失感は今でも俺の中にある。 「置いて行かないで」 愛するモノへ叫ぶ声を俺は知ってて、それをこれからも繰り返すだろう。 愛する家族、そして親友内藤とも、いつかは別れる。 それは仕方ないことで、だから、今、一緒にいる今、強く愛していくしかないのだ。 ユウタが飛んだ場所から振り返る。 そこにいるのがわかっていたからだ。 男が立っていた。 焼きながら燃やされているようなタトゥーと炎のような目は、夕陽の光の中でさらに燃え上がっていた。 俺だけを見つめる瞳。 俺だけを欲しがる男。 俺はこの男が可愛くて仕方ない。 離れない。 この男だけは離さない。 間違っていようがなんだろうが、死んでも離さない。 離してもらえない。 離さないで。 「帰ろうぜ」 俺は笑った。 帰ろう。 俺達の家に。 俺が作った飯を喰って 声を殺してセックスして 一緒に眠るんだ。 それを終わることなく繰り返そう。 「愛してる」 男に唐突に言われて笑ってしまった。 愛の意味を知ろうとしている可愛い男。 口にすれば意味が分かるかと思ってる。 「知ってるよ。そして俺もお前を愛してる」 俺は答えた。 男は笑った 子供みたいな顔で。 俺しか知らない顔で。 それに見蕩れた。 手をのばして捕まえる。 捕まえたなら離さない。 おわり

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