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第6話《序章》魔王が目覚める日⑥
この世には、勝者と敗者が存在する。
簡単な道理だ。
勝者は奪い、敗者は奪われる。
敗戦国は戦勝国に蹂躙され、植民地となった。
広大な領土を持つ烈は、正規軍だけで国土の保持には限界がある。侵略した地域では兵士を現地調達して軍を編成している。
当然、徴兵されるのは併合した地域の民衆だ。
エリア19で徴兵された兵士は『サキモリ』と呼ばれた。
「サキモリは命を捨てて、私を守れ」
敗戦国の民衆は、命さえ、侵略射に奪われる。
生殺与奪の権利はない。
「………………いや。待て」
フゥッと唇が上がった。
「戦線を下げろ。戦闘車両一軍、待機」
「しかし!」
モニターの兵士が声を上げる。
「これは好機だ」
「どういう意味ですか」
戦線を下げれば、絶対防衛線であるRy3.5地点を突破される。
「新型フラッグを片付ければ、本国での私の評価が上がる」
キーボードにシモン自らの指を乗せた。
コード02-XG3
「新型を出す」
「ですがっ」
「新型には新型をぶつける。機体性能のいいテストだ。スペックではこちらが圧倒している。3.5が抜かれる事はない」
3.5が抜かれる事は、決して……
ゆえに。
「私が搭乗する」
(シモン自ら!)
この男が出るのか。
負ける事は絶対ないと見越して。
「02-XG3は整備が必要です。すぐに射出できません」
「サキモリで時間を稼げ。盾になれと命じた筈だ」
「はっ」
「射出準備ができたら呼べ。控えにいる」
「Yes, My lord 」
カッ
軍靴が鳴った。
司令室全員の兵士が立ち上がり、敬礼する。
……カツン
靴音が止まった。
俺の前で……
「殿下」
声が頭上からおぞましくも降ってきた。
「おっと、そのままで。頭は上げない方がいい」
ビリッリリリリリィーッ
「少しでも上げれば電流に打たれますよ」
頭の上に電流を帯びた警棒がかざされている。
「あなたは頭を下げ、平伏していればいい」
「本題を言え。ユーゴ シモン辺境国防長官」
「その物言い、気に入りませんね。まぁ、私は三日後に本国に帰還しますが」
「賛辞を送ります。大した戦功も立てず本国へのご帰還、おめでとうございます」
「戦功なら今から立てますよ。あの新型フラッグを潰す」
モニターの中で《ガニメデ》が土埃を上げて砦に侵攻している。
「戦功を上げれば、それに見合った褒美を貰わねばならない。本国へ要求するつもりです」
おもむろに跪いた。
冷たい唇が耳元に近づいてくる。
「あなたが欲しい」
吐息がゾワリと耳朶を舐めた。
「戦功の報酬として、あなたを貰い受けます」
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