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第8話《序章》魔王が目覚める日⑧

(知らないのか?)  俺に関われば、あいつに目を付けられる。  シモンに言いがかりを付けられるぞ。司令室にいるという事は、一等兵以上だろう。降格ならまだマシだ。最前線送りだってあり得る。だから、俺には誰も関わらない。存在を無視するか、腫れ物に触れるように誰もが扱う。  なのに、こいつは…… (なにを考えているんだ?) 「……か、殿下」  包む腕が労るように気遣いながら、強く抱きしめた。  俺に触れている。なぜだ? 「殿下。やはり、どこか痛むのでは?」 「そうじゃ……ない」  目深に被った軍帽の下から見つめる藍色の瞳が揺れている。他意は感じない。ほんとうに唯、俺を心配しているのか。 「大丈夫ですよ。もう怖くありません」  人の体温だ。  厚い胸板に額を預けて、優しい腕に包まれている。  どこからか懐かしい香りがした。  あれは、あの時、庭に咲いていた沈丁花(じんちょうげ)…… (俺は、なにをしている?)  見られているぞ。  別室で、奴にモニターで。 (この男が最前線送りになる)  腕を払おうと胸を押し退けたが、逆に手を捕らわれてしまう。 「大丈夫ですか。ここ……」  掌がぶたれた左の頬に触れて、ビクンッと肩が揺れた。 「あっ、すみません。痛みますよね。アイシングしましょう」

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