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第9話《序章》魔王が目覚める日⑨

 腰のポーチから処置に必要な道具を手早くまとめる。  左の頬に冷たい手が触れた。 「これを……そうです。押さえていてください。少し痛むと思いますが痕が残らないようにしなければ」  簡易アイスバッグをハンカチで包んで、頬に当てられた。 「ここ、切れてますね。酷いな」  唇の端に指の腹が触れた。  ヒリッと痛みが走って震えた。倒れた拍子に切れていたんだ。 「痛かったですね。すみません。ここも治療しましょう」  触れる指がもどかしい。なるべく痛みを与えないように気遣っているのが分かる。 (ほんとうに何も知らないんだ)  俺に関われば不利益しかない。  おそらく、赴任して間もないのだろう。シモンはもうすぐ本国へ帰還するが、兵士の補充は随時行われる。彼は本国からの補充要員だ。 「応急処置になりますが、これでもう大丈夫です。ほかにどこか痛むところはありませんか」  やめさせなければ。  早く。一刻も早く。  俺に関われば、シモンの危害が及ぶ。奴は別室で、この部屋の様子をモニターで監視している。  もう遅いかも知れない。  しかし、この男に降りかかるこれ以上の事態の悪化は止めなければ。 「殿下」  ついさっきまで唇を辿っていた手が、俺の手にそっと触れた。 「できましたら、腕を見せて頂きたいのですが。倒れた時に、打ち付けたのではないかと心配です」  この男は何をまだ!  分かっているのか。自ら窮地を作っているんだぞ。 「袖、まくらせて頂いても構いませんか」  なのに俺は、この男の腕を振り切れない。なぜ?

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