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第12話《Ⅰ章》傾城の悪魔②
波が笑った。
天高く白波を突き立てて、ザブンザブンと空よりも深い蒼が雲の影でうねり、切れ間の波の色が光を反射して輝く。
潮風が空に昇る。
アマクサの海が、空を笑っている。
波が永遠の時を数えて、笑っている。
不意に風向きが変わった。
暴風が押し寄せる。潮騒をエンジンの駆動が掻き消す。
影が砦に伸びた。
空を覆い、太陽を喰らう《ジェネラル》02-XG3
大地を蹴った。
搾取された大地は、今や佳日の緑は失われた。
八百万 の神が宿るとかつて云われた国土に祝福はない。残されたのは荒涼とした砂だ。地下資源は占領国である烈が吸い尽くした。
残りカスの大地にはもう、森を育てる力はない。
リアス式海岸の奥深くまで蒼い海が流れて、湾に点在する島々の断崖の上から緑の生い茂る、かつての豊かなアマクサはもう甦らないだろう。
ここは、エリア19-06防衛戦
戦場だ。
(速い)
最新鋭第三世代《ジェネラル》だ。絶対防衛線Ry3.5地点まで、数百メートルまで距離を詰めた。
《ガニメデ》を射程圏内に捕らえる。
(撃つか)
滑走しながらショルダーが開いた。刹那に風圧が空を穿つ。真っ黒な煙が蒼穹を侵食した。
火花が散る。
真っ赤な轟音が大地を揺るがした。
ミサイルの雨が《ガニメデ》に降る。
(やったか)
新型《ジェネラル》と、新型《フラッグ》
しかし、機体性能で02-XG3が勝っている。これで討てなければ恥だ。機体性能に頼ればあの男にだって、決定的な打撃を与える事はできるさ。
潮風か煙を払う。
バギィッ、ジジジジィィィーッ
火花がが散った。《ガニメデ》の肩に背負う砲台を一門、潰した。
残る砲台は右肩の一門のみ。
戦力は半減した。
(やるじゃないか)
もっとも俺なら、さっきの一撃で両方の砲台を粉砕していたが。
だが……
(この戦争は、シモンの負けだ)
機体性能で勝っても、戦術で負けている。なぜならば……
(俺が敵国軍司令ならば)
「《ガニメデ》は陽動だ」
中央に相手の戦力が集中し、右翼と左翼が手薄になった瞬間。
砂煙が噴き上がった。右と左、同時に天高く。
「両翼を叩く」
異形が忽然と現れた。
右に二体目の《ガニメデ》
左に三体目の《ガニメデ》
中央の《ガニメデ》も死んでいない。
(さぁ、どうする?ユーゴ シモン)
《ガニメデ》は三機だ。
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