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第13話《Ⅰ章》傾城の悪魔③
クッ……
(基本戦術だぞ)
だが基本戦術ほどハマると厄介なものはない。
《ガニメデ》が三機揃えば、02-XG3の性能だけで突破は難しい。打つ手を間違えれば、取り返しのつかない事態も起こり得る。
今、《ガニメデ》の司令官は正攻法の基本戦術で攻めてきている。
中央に集めて、三機同時攻撃。
(これを阻止するには)
風が吹いた。
陸から空へ。
舞い上がった風が、脚を、腕を、胸を、首を駆け上がって、雲間に昇る。
雲が太陽を隠した。
《ガニメデ》の駆動音だ。
近づいてくる。
戦局は機体性能で勝る02-XG3に分がある。《ガニメデ》単体では02-XG3を落とせない。ならば攻城戦用に両翼に潜伏させていた二機の《ガニメデ》を集結させて……
パンッ
打ち鳴らした拍手が、空の翳りに高らかと響いた。
02-XG3を……
「一気に叩く」
ならば当然、《ガニメデ》の攻勢に対抗する戦術は……
「おいっ」
驚愕の声がついて出た。
「なにを考えているッ」
02-XG3が《ガニメデ》から離れた。
「ここは各個撃破だ!」
中央の《ガニメデ》を確実に仕留め、左右どちらかに旋回する。《ガニメデ》は足が遅い。一対一の戦闘に持ち込んで、追いつかれる前に撃破すれば問題ない。
なのに、あいつはァァッ!
「止まれ!02-XG3!」
更に距離をとった。今更、臆病風にでも吹かれたか。
(《ガニメデ》の獲物はレーザー砲だ)
離れれば離れるほど、敵の照準圏内だ。狙い撃たれるぞ。
しかも後退した、その場所は。
「馬鹿かッ!」
戦闘車両隊が布陣する場所だ。
援護射撃を受けたければ、逆だ。02-XG3が敵の目を引き付けて、その隙に戦闘車両隊の一斉射撃を行うべきだろう。
そんな事も分からないのかッ
(今《ガニメデ》に砲撃されたら)
敵司令官は見逃さない。
肩のレーザー砲が青く光った。
(チャージが完了した)
一瞬。
ブォオオオオォォォオオーッ!!
閃光が轟音を巻き上げた。
黒煙と土煙と焦土の香りが鼻孔を突いた。
「味方が……全滅だ」
えぐられた大地。凪ぎ払われた焦げ臭い砂の上に戦闘車両隊の影はない。レーザー砲の光が味方部隊を全て葬り去った。
02-XG3は辛うじて、機体性能で避けた。
しかし、左脚が火花を噴き上げている。あの脚ではもう走れない。勝機である機動力を失った。
代償は大きい。
どうする?
どうすればいい?
クゥィィィーン
クゥィィィーン
二つの機械音が同時に止まった。
右から一機、左にも一機。
正面に一機。
(囲まれた)
遂にこの地に、三機の《ガニメデ》が集結してしまった。
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