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第15話《Ⅰ章》傾城の悪魔⑤

「シモン!聞こえるか、シモン長官」  《ジェネラル》専用02無線を開いた。 「聞こえたら応答しろ」  ザザッ  耳に駆けたワイヤレスイヤホンにノイズが走った。 『何の用だ。私は忙しいのだ』  繋がった! 「今すぐ脱出を中止しろ」 『何を言っている。このままでは爆撃される。その前に』 「それが狙いだ。外に出た瞬間、爆発するぞ」 『なんだとっ』 「索敵システムが反応した。《ガニメデ》は罠を張っている。ステルスタイプの機雷だ。生体反応で爆発する」 『どういうことだ!』 「脱出ポッドで《ジェネラル》から離脱した瞬間、生体反応を見つけて爆発する。《ガニメデ》はお前諸とも自爆する気だ。機雷源が爆発すれば辺り一面火の海になる」 『今すぐ機雷を除去しろ』 「無理だ。先程も言ったが、ステルスタイプの機雷だ。時間がかかる」 『さっさと除去だ。サキモリを使え!全員死んでも構わん』 「生体反応で爆発する機雷だと言っただろう!爆発すれば《ジェネラル》ごと吹っ飛ぶぞ」 『……では、私はどうすれば』  イヤホンから恐怖の色の滲む声が引きつる。 (よし、第一段階クリアだ)  一軍を背負う誇りと責任ではダメだ。  勝利への執着や名誉でもない。  こいつの心に入り込むのは、自身の命への飽くなき執着。 (そこに囁きかければ、必ず落ちる)  生への執着。  死の恐怖。  生きたいと渇望する本能。  他人を蹴落としてでも、自分の命を選ぶ。  他者を犠牲に生き残るのが、ユーゴ シモンだ。 (ステルスタイプの機雷なんて嘘だよ)  そんなもの、どこにもない。 (お前を釣るためのフィクションだ)  これでシモンは、どんなことも俺に喋る。自分が生き残るためなら、何でも。  俺はこいつを操ればいい。 (安全な、この場所から)  この高みから……  風が吹いた。  陽光が照り返す波を駆けて、砂を蹴り、空へ。  一陣の風が黒髪をすくった。 「《ジェネラル》内で待機。機雷が爆発しなければ問題ない」 『しかし!《ガニメデ》が撃ってくるぞ』  あぁ、まだその問題が残っている。 「スペックは?02-XG3の武器及び兵器を教えろ。ミサイルは残り何発だ」  これで02-XG3の機密情報も把握できる。 『知らん!』  …………なっ。 (いま、なんと……) 「なんと言った」 『知らんと言ったのだ』 「そんな馬鹿なことがあるか。パイロットが搭乗機のスペックを知らないなどあり得ない!」 『私が知るわけないだろう。そんなものは開発部の人間に聞け』  この男はッ (馬鹿かッ!)  一体どうして02-XG3に乗ったんだ?  武器も分からず、新型フラッグ《ガニメデ》をどうやって撃墜するつもりだったんだ。

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