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第22話《Ⅰ章》傾城の悪魔⑫

 『勝ち目』を考えていたら、戦はできない。  戦争は降りかかってくるものだ。  止まった方が負ける。  切り結んだならば、その刃を貫き通せ。 (敵陣深く) 「…………玉砕は」  ツッ  通信ランプが光る。 「行わない」  命を盾にした決死隊は何の戦果も得られない。それは歴史が証明している。  かつて島国が大陸が戦ったさ中、くだらん国体護持のためにあまたの命を盾にし、無謀な戦争を長引かせた結果、島国は壊滅寸前まで追い込まれた。 (『カミカゼ』は戦術ではない)  国民を殺す国を『国家』とは呼ばぬ。 「俺が武器にするのは『戦術』だ。玉砕は戦術ではない」  風が吹く。  アマクサに…… 「そもそも!」  海を走る風が潮の香りを孕む。 「玉砕作戦なら、こんな面倒な戦略はとらない。《ガニメデ》が三機揃ったところでお前を餌に同士討ちさせて、最後はお前もろとも機体を《ガニメデ》にぶつけて終了だ」  無線の向こうの声が沈黙した。 「もう一度言う。俺の描く戦術は《カミカゼ》ではない」 『だが、このままでは……』 「勝つための戦術だ。K9地点で《ガニメデ》を一網打尽にする。布石は整えた」 『分かった。K9だな』  砂塵を巻き上げて、02-XG3が爆走する。  間に合うか。 (チッ)  策敵システムが背後に機影を感知した。 (撃ってくる!)  《ガニメデ》の獲物は長距離砲だ。射程圏内に入った!  警報ブザーがけたたましく響く。 「後ろは気にするな。とにかく前進しろ」  損傷した左脚で02-XG3にレーザー砲を避ける余力はない。少しでも距離をとるしかない。  光が爆発した。  ゴゴゴゴゴオォオオオーン!!  砂塵と黒煙が空を染めた。  ツッツッ、ツゥゥー  ツツッ、ツゥゥゥゥー!  通信ランプが光った。  無線が生きている。 「シモン!」 『……大丈夫。無事だ。コックピットに損傷はない』  そうか……  レーザー砲を撃ったのは最初に砲台の一つを潰した《ガニメデ》だ。 (砲台を一本失ったせいで照準が僅かにズレたんだ) 『しかし右脚をやられた。動けない』  ……あぁ。 「構わない」  なぜなら、お前の今いるそこは…… 「K9だ」

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