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第26話《Ⅰ章》傾城の悪魔⑯
「飼われるのには飽きた」
それだけだ。理由なんて。
『籠の中で飼われて生きてきた小鳥は、外では生きられない』
「籠の中で生かされるよりマシだ」
『飼われるように仕向けてきたあなたでは、生き方を変えられませんよ。これからも私が飼って差し上げます。一生、籠の中で飼い慣らして犯してあげましょう。それがこの砦を楼閣と呼ばせて、歴代の司令官達を籠絡して生きてきた、傾城の悪魔……』
あなたの……
『望みだ』
カチリ
トリガーの音が聞こえた。砂の舞う風に乗って。
(一人じゃない)
数は複数人。
この小さな音が聞こえるという事は、もう近くまで!
ガダンッ
屋上の扉が蹴破られた。
侵入してくる複数の影。
(帝国正規兵!)
『チェックメイトだ』
ゲームの終わりを告げる声が無線から響いた。
武装した兵士が俺を囲む。
カシャカシャカシャカシャ
一斉に銃口が向けられる。
『あなたの位置を把握していないとお思いか。無線は全部隊に繋がっているのですよ。情報解析班にもねぇ』
風が背後から吹いた。黒髪が空にはためく。
背中は絶壁。この高さから落ちれば命はない。
正面には正規兵が銃を構えている。
(六人か)
突破は極めて困難だ。一人で六人を相手にすれば怪我を負う。怪我した体でどこまで走れるだろう。増援は必ず来る。
『立場は逆転しました。投降をお勧めします』
無線ランプが光った。
『今回の事は不問にして差し上げましょう。また私の鳥籠の中に戻るだけだ』
フッと無線の向こう側で吐息が笑う。
『私に生涯の忠誠と、生涯の愛を誓いなさい』
悪いようにはしない……と。
(投降は、悪い手段ではない)
不利益はない。元の生活に戻るだけなのだからプラマイゼロだ。
命は保障される。
(この話、悪くはない)
元の衣食住のなに不自由ない暮らしに……
鳥籠の中の自由のない暮らしに……
「…………《ジェネラル》から降りろ」
ククッ
口の端が弧を描いた。
「その漆黒 は俺の色だ」
太陽を喰らう日蝕の闇色。
機体に手を伸ばす。決して届かない漆黒に。
パンッ
乾いた音が響いた。
(撃った……のか……)
シモンの命令はまだだ。
上官の命令なしに……
これは銃声だ。
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