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第30話《Ⅱ章》月輪と太陽③
(何者なんだ?)
宰相とはいっても文官だ。
だが。
(さっきの体術といい……)
相手は訓練されている兵士だぞ。それを一瞬で、ものの見事に倒すなんて。
文官に為せる技じゃない。
戦術だって、そうだ。
アマクサでは地下資源の搾取による陥没が起きており、砂が陥没穴を塞いだ窪地が数ヶ所存在する。それを利用してシモンを追い詰めた。
つまり……
(勝利条件であるシモンの身柄の確保を早々に為し遂げてしまった)
この男は、ただの文官ではない。
「私の力ではありませんよ。あなたの戦術をお借りしました」
「確かに。《ガニメデ》爆破後02-XG3を奪うため、アマクサの窪地を利用して捕縛を考えシモンの乗る02-XG3をおびき寄せた……」
「なので、あなたの戦術の勝利です。全て、あなたが描いた構図です」
「貴様ッ」
なんて奴だ。
(俺の戦術を借りただと)
違う。
(俺の戦術を読んで実行したんだ)
この男は、俺の思考を読んだんだ。
(つまり、この男の前では俺の戦術は丸裸だ)
戦術が通用しない。
もし戦えば、俺は確実に負ける。
瑠月……
赤い髪が空に大きくひらめいた。
砂が積もっていく。02-XG3の機体のほぼ半分がずっぽりと、窪地に埋まっている。こうなっては砂の重みが覆い被さり、脱出ポッドでの脱出は不可能だ。
「采配を」
殿下……
「あの男の処遇をお決めください」
紺碧の双眸が俺を見つめた。
「なにを……ここから」
動く事もできないのにか。増援部隊が幾重にも囲んでいる。シモンも脱出できないが、俺達もまたここから脱出する手段がない。
(互いの身の安全を担保に交渉……)
そうじゃない!
瑠月が「処遇」と言ったからには、その先がある。
…………まさか!
(いや。まさかじゃない)
俺の思考を読んで、俺の描いた戦術を形にして実行しているなら、いま紺碧の双眼が見つめる先も俺の描く景色と重なっている。必ず。
「調整は完了しています」
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