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第31話《Ⅱ章》月輪と太陽④

 無線が光っている。  俺に呼びかけているんだ。通信を繋げ、と…… (シモンが言っている) 「いけません」  手を固く握られた。  大きな厚い手だ。 (文官の手じゃない)  軍人の手だ。 「聞いてはいけません。いや、聞かないでください」  俺を捕らえている。  振り切れない力ではない。わざと緩めているのか。それとも俺を試しているのか。 「あなたをお護りするのは、私です。お命じください。『お前の力を示せ』と」  それとも……  不意に口角が薄く笑った。 「私に力を持たせるのは恐いですか。龍族の正統なる末裔・輝夜皇子」  この男は測っている。 (俺の器を……)  誘いに乗れば、俺はどうなる?  破滅か。それとも…… (俺の器は利用されるほど安くない) 「お前に脅える器だったら、お前は俺に付きはしない。違うか?」 「はい」 「素直だな」 「私の器を見くびって頂いては困ります」 「言ってくれる」 「これでも帝国宰相ですので」  私の力は簡単にはお譲りしません。 「私が認めた主に、我が力を」  男が跪く。  赤い髪を石畳に垂らして、長い睫毛をすっと伏せる。 「我が主・輝夜皇子に、我が忠誠を」  恭しく尊く俺の右手を、彼の右手が取る。 「汝は今この時より、我が剣だ」 「我が刃が零れ、折れる時まで、あなたをお護り致します」 「命を捧げよ」 「Yes, your Highness(イエス ユア ハイネス)」  静かな唇がそっと手の甲に落ちた。  冷たい口づけを、熱い砂塵をはらんだ風がさらう。  赤い髪が空に煽られる。  紺碧の瞳が薄く開いた。 「我が剣となる力を授ける。シークレットコードは?」 「私の名前を」  熱い風が唇の端を掠めた。  その男は、帝国宰相  その男の名は………… 「瑠月」

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