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第33話《Ⅱ章》月輪と太陽⑥

 機動の鍵となるシークレットコードは、お前の名前。 「俺は傾城の悪魔だ」  右手に跪く唇に、そっと吐息を灯した。 「悪魔に名前を教えるという事が、どういう事か分かるか」  男の赤い髪に、そっと囁く。 「俺に生涯囚われる……という事だ」 「いいですね。つまり、それはあなたが私から離れられなくなるという事でしょう」  瑠月が微笑んだ。 「わっ!」  俺の体、宙に浮いている 「捕まえました」  耳元を吐息混じりの声がくすぐった。 「なにを!」 「なにって……私を捕らえてくれるんでしょう」 「離せッ、それはものの例えで」 「嫌です」 「なっ」  この男、何を考えている。 「命令だ。俺はお前の主だぞ」 「はい。ですので、しっかり私を捕らえてくださいね」  違う。捕らえられているのは俺の方で。 「私を捕らえたいのであれば、頑丈な檻を用意して下さい。まぁ、それでも脱出しますけど」 「何の話だ?」 「あなたは私を捕らえられる檻になれますか?」  紺碧の眼差しが鮮やかに瞳の奥に差し込んだ。  心臓が……止まりそうになる……  夜明け前の闇をまとう玲瓏に引き摺り込まれる。  意識が囚われて溺れてしまう…… 「思ってたよりも軽いですね」 「なっ!」  俺はッ 「太ってないぞ」 「失礼しました。そういう意味ではなく」 「…………」 「…………」  ………………  ………………  ………………  この沈黙は何だ? 「やっぱりお前、太っていると思ってたのだろう!」 「決してそのような事は。ただ、何というか……気合いを入れすぎたというか……」 「遠回しに牽制しているな」 「そういうわけでは……わっ、暴れないでください」  両脇に手を差し込まれて抱っこされている体勢から、瑠月の肩に担がれてしまう。 「痛ッ、痛いです。蹴らないで下さい」 「だったら離せばいいだろう」  ポカポカ 「離したら、あなたが落っこちてしまいます」 「そもそもどうして、俺がお前に抱えられなければならん?」 「それは、流れというもので」 「誰も頼んどらん!」 「お姫様抱っこの方が良かったですか」  ナァァァァーッ💢 「さっさと下ろせェェーっ!!」  ポカポカポカ 「イッ。……たく、帝国宰相を殴るなんて、あなたくらいのものですよ」  ふわりと上がった唇が弧を描いた。 「貴様、本当に文官か」 「答え合わせは後ほど」  深い影が俺達を覆った。  見上げた瞳の中に、光が落ちる。キラキラ、キラキラ……  キラキラ、キラキラ……  落ちる光の色は、(しろがね)  02-XG3対を為す《ジェネラル》  時に忘れられた、その名は………… 「《クロノス》」  大地に影を下ろし、空に白銀を羽ばたかせ、もう一つの《ジェネラル》がアマクサに降り立った。  光と影  02-XG3が太陽を喰らう漆黒の『蝕』の《ジェネラル》なら、《クロノス》は太陽。  (かげ)り蝕された日輪が、真なる姿を深淵の影の中で見せる。  ダイヤモンドリングの(ヒカリ) 「あなたの(つるぎ)です」  凛と語る相貌が(しろがね)(ほむら)に照らされる。 「行きましょう。私達の戦場に」

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