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第35話《Ⅱ章》月輪と太陽⑧

 この世界には二つの性がある。  外性器による区別を第一性と呼んでいる。  これに対して、生殖による区別は第二性と呼ばれている。  第一性は外性器によって雌雄の二種類に分けられる。  第二性は生殖能力によって区別する。  第一性通りの生殖能力を持つバースはβと呼ばれ、全世界の人口のおよそ八割がβ性である。  受精能力のある内性器を持ち、子供を産む生殖能力が突出しているバースは、Ωと呼ばれている。特に子宮のある雄Ωは稀少種であるが、雄の精液には生殖能力がない。  そして、受精させる放精能力に優れているバースを、αと呼ぶ。  αの精液量及び精液に含まれる精子の数はβの雄の二倍から三倍あり、放精能力はそのまま個体の能力に比例している。  β・Ωよりも身体能力、知能指数、そのほか感覚的能力に優れており、カリスマ性を持っているのがαだ。  人口の残り約二割がΩ  人口比率の数パーセントがαである。  この世界は、能力でほかのバースに勝るαが支配している。  どの国においても例外はない。  数パーセントのαが、β・Ωを管理している。国とは、αがβとΩを支配するための組織なのだ。殊に受精能力のため繁殖用とされたΩは、βの更に下。社会の最下層に追いやられ、Ωの人権を認めている国はない。  世界の半分を領土に持つ中華大帝国。 (烈国の皇帝もαだ)  否。  正確にはαだった。  世界人口のたった数パーセント。稀少性の高いαは誕生する事自体が稀で、大皇帝が崩御されて以降、何代も烈国にはα性の皇帝が生まれていない。  今上帝(きんじょうてい)もβ  奸臣(かんしん)による横領が蔓延(まんえん)し、皇帝は傀儡(かいらい)。事実上の空位だ。 「どうしましたか。怖い顔して」 「烈国の政治は腐敗している。自浄作用もない」 「すると私もまた奸臣の一人ですね。何しろ帝国宰相ですから」 「違う!」  逆だろう。 「お前に国を腐らせる邪心は感じない。国の中心に立つ宰相のお前がこんな辺境に来たのは、国を腐らせた奸臣達に……」 「困りましたね」  フッ……と。 「αには対となるΩがいて、一目見ただけで惹かれ合う『運命の番』が存在するらしいですが」  小さなため息が耳の後ろに吹いた。 「Ωでもないのに、あなたには分かってしまうのですね。同じαだからでしょうか」

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