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第37話《Ⅱ章》月輪と太陽⑩

 全部、状況証拠だ。  だが全て説明がつく。  帝国宰相が辺境の植民地に転任とは、左遷に等しい。  ましてやここは海に囲まれた鉄壁の要塞にして孤島だ。本国の預かり知らぬところで、何が起こっても不思議でない。 (そうだ)  何かを起こして、サキモリのせいにすればいい。  犯人をサキモリに仕立てて、サキモリを処分すればいいだけの話だ。 (百人でも二百人でも、サキモリを殺せば事は済む)  何でもサキモリのせいにしたがる、おあつらえの人物がいるだろう。  このアマクサには……  総司令 (ユーゴ・シモン)  大して戦功もないあの男が、本国で確固たる地位を約束されて帰還する理由は一つだ。 「帝国宰相・瑠月暗殺」  シモンの背後には本国首脳部が後ろ楯についている。  利権を貪る奸臣連中だ。  瑠月は殺されるのが分かっていたから、赴任の数日前に増員の兵士としてアマクサに潜入した。  砦内を調査し、幾つかのセキュリティーを解除して《ガニメデ》を送り込んだ。 「全部、仕組まれた偶然だ」  こうなる事を見越していたから、《クロノス》も意図した復活だ。 「弁明はありますか。宰相閣下」 「まだ、その名前で私を呼びますか。私はもう宰相を剥奪されています。元帝国宰相です」  その唇が小さく儚く弧を描いた。 「答え合わせ、されてしまいましたね。ほぼ正解です。あなたは私を見限った事でしょう。もう遅いですが、嘘をつきました事をお詫び致します」 「嘘はついてないだろう」 「輝夜皇子……なにを?」  声がハッと息を飲む。 「あなたは先ほど、私の行動の予測を仰って」 「それはお前が現政権を受け入れた場合だ」 「まさか」 「烈国政府を否定すれば、宰相剥奪も否定される。お前は帝国宰相のままだ」  唇を高く上げた。 「先ほど話したのは、お前の過去の行動予測にほかならない。俺は、お前の未来の行動予測まで読んでいる」 「いいの……ですか?」 「構わない。目的は同じだ」 「ならば……」  ぎゅっ……と。  大きな手が熱く右手を握る。 「我が主。かつてこの地に栄え、滅亡した国『日本』を復興させて下さい」  私は…… 「帝国宰相として、日本に亡命します」  《クロノス》の足元で黒煙が火を噴いた。  爆薬を仕掛けた帝国兵が押し寄せてくる。  敵は世界の半分を治める大国・烈。 「いいだろう」  重なる右手を強く握り返した。 「新生日本国。首都はアマクサだ」

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