38 / 78

第38話《Ⅱ章》月輪と太陽⑪

 帝国兵が押し迫る。  到着した先鋒部隊は…… 「足止めです。この後、特殊工作部隊が来ます」 「分かるのか?」 「私なら、そうします」 「俺でもそうする。特殊工作部隊は厄介だな」  《ジェネラル》相手に破壊工作まではできないだろうが、起動不能にしてくる恐れはある。 「お心は決まりましたか?殿下」 「心?」  そんなもの。 「お前を選んだ時から、既に決まっている」 「嬉しい告白ですね」 「どうだろう。俺は『傾城の悪魔』だ」  すぅ……と唇を耳元に近づけた。 「悪魔にとり憑かれると、魂を持ってかれるぞ?」 「ご随意に。あなたの剣になった瞬間から、魂はあなたのものです」  指先が顎をとって顔の向きを変えられた瞬間、低音の声が耳のひだを掠めた。 「……要らない」 「おやおや。早速振られてしまいました」  フフッと声が笑った。 「それでは今後は『傾城の悪魔をたぶらかした帝国宰相』を名乗りましょう」 「たぶらかされてなんかッ」 「来ます!」  男の目が戦いの色彩を帯びた。  ハッとしてモニターを見返る。  赤い火が弾け飛んだ。 「ロケットランチャー」  衝撃でコックピットが揺れた。 「特殊工作部隊か」  到着前に振り切る予定だったが。 「会話が弾んで時間を忘れてしまいましたね」 「お前のせいだっ」  会話も弾んでないし!  工作部隊もロケットランチャーで《ジェネラル》が破壊できると思ってはいまい。 (つまり、これは目眩まし)  爆発の黒煙に紛れて距離を詰めてくる。  あるいは取り囲まれたか。 「起動系統を麻痺させるジャマーを使ってきます」 「《ジェネラル》にそんなものが効くか」 「数秒止めれば十分です。起動が麻痺した数秒間、ジェネラルは裸になる」 「数秒間、防御システムも使えない」 「その瞬間、最大火力で攻撃してきます」 「最悪だ」 「いえ。最高でしょう」  紺碧の玲瓏が微笑んだ。 「労せず最大火力の武器を手に入れられるのですから」 (この男……) 「まさか」 「言い忘れていました。特殊工作は全員βです」  βは…… 「αの足元にすら及ばない」  コックピットのメーターが下がっていく。計器の数値がみるみる減少する。  ウィーンウィーン  異音を放ち、モニターが点滅する。  起動系ジャマーに機体が掛かった。 「ましてや、こちらはα二人です」  コックピット照明が落ちた。  機動が停止した。 「βではαに勝てない」 「お前、わざとジャマーに掛かったな」

ともだちにシェアしよう!