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第38話《Ⅱ章》月輪と太陽⑪
帝国兵が押し迫る。
到着した先鋒部隊は……
「足止めです。この後、特殊工作部隊が来ます」
「分かるのか?」
「私なら、そうします」
「俺でもそうする。特殊工作部隊は厄介だな」
《ジェネラル》相手に破壊工作まではできないだろうが、起動不能にしてくる恐れはある。
「お心は決まりましたか?殿下」
「心?」
そんなもの。
「お前を選んだ時から、既に決まっている」
「嬉しい告白ですね」
「どうだろう。俺は『傾城の悪魔』だ」
すぅ……と唇を耳元に近づけた。
「悪魔にとり憑かれると、魂を持ってかれるぞ?」
「ご随意に。あなたの剣になった瞬間から、魂はあなたのものです」
指先が顎をとって顔の向きを変えられた瞬間、低音の声が耳のひだを掠めた。
「……要らない」
「おやおや。早速振られてしまいました」
フフッと声が笑った。
「それでは今後は『傾城の悪魔をたぶらかした帝国宰相』を名乗りましょう」
「たぶらかされてなんかッ」
「来ます!」
男の目が戦いの色彩を帯びた。
ハッとしてモニターを見返る。
赤い火が弾け飛んだ。
「ロケットランチャー」
衝撃でコックピットが揺れた。
「特殊工作部隊か」
到着前に振り切る予定だったが。
「会話が弾んで時間を忘れてしまいましたね」
「お前のせいだっ」
会話も弾んでないし!
工作部隊もロケットランチャーで《ジェネラル》が破壊できると思ってはいまい。
(つまり、これは目眩まし)
爆発の黒煙に紛れて距離を詰めてくる。
あるいは取り囲まれたか。
「起動系統を麻痺させるジャマーを使ってきます」
「《ジェネラル》にそんなものが効くか」
「数秒止めれば十分です。起動が麻痺した数秒間、ジェネラルは裸になる」
「数秒間、防御システムも使えない」
「その瞬間、最大火力で攻撃してきます」
「最悪だ」
「いえ。最高でしょう」
紺碧の玲瓏が微笑んだ。
「労せず最大火力の武器を手に入れられるのですから」
(この男……)
「まさか」
「言い忘れていました。特殊工作は全員βです」
βは……
「αの足元にすら及ばない」
コックピットのメーターが下がっていく。計器の数値がみるみる減少する。
ウィーンウィーン
異音を放ち、モニターが点滅する。
起動系ジャマーに機体が掛かった。
「ましてや、こちらはα二人です」
コックピット照明が落ちた。
機動が停止した。
「βではαに勝てない」
「お前、わざとジャマーに掛かったな」
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