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第41話《Ⅱ章》月輪と太陽⑭
(β全部隊が平伏した)
ここに見えている部隊だけじゃない。無線の向こう。通信回線を開いている全ての部隊が服従した。
現にβ部隊が、ほかの部隊に向けて発砲する事態は起こっていない。
(帝国宰相・瑠月が戦局を変えた)
正直なところ見くびっていた。
瑠月の能力を。
同じαでも人質の俺に、ここまでのカリスマはない。できるのは、せいぜいβ達の攻撃を止めるまでだ。
だが、いま帝国軍を掌握しているのは……
(瑠月)
実質の総司令だ。
(もしも……)
瑠月が俺に反旗を翻せば、俺は帝国軍全軍を敵にまわす事になる。この男は、俺の『剣』ではない。
(彼は、諸刃の剣だ)
「わっ!」
瑠月★
「なにをっ」
「怖かったでしょう。戦場は初めてですよね」
「だからって」
大きな手が後ろから伸びてくる。
「頭、撫でるな!」
「よしよし、いい子、いい子」
「おいっ、人の話を」
「もう怖くありませんよ」
「そうじゃないっ」
ブルンブルンっ
頭を横に振って瑠月を振り払うけど、また手が舞い戻ってくる。
「ダメですよ、私と仲良くしないと。でないと帝国全軍が、あなたを敵とみなします」
「~~~」
帝国宰相……この……
「腹黒め」
「なにか仰いましたか」
「なにも」
(~~~)
絶対あとで覚えてろよ。
(なんだ?αで龍族皇子たるこの俺が、こんな捨て台詞)
~~~!!
「よしよし。可愛いですから、どーどー」
(お前のせいで苛ついてるんだァァ~!!)
「私に頭を撫でられながら聞いて下さい。最大火力の武器が手に入りました。我々も無傷。武器も負傷者はいるでしょうが命に別状はありません。ほぼ無傷です。人こそ最大の武器です。これからは私と共に、帝国軍もあなたをお護り致します」
「お前は……」
最初から全部こうなる事を狙っていたのか。
「何者だ?」
「元軍人です。戦争で負傷し退役 しましたが」
俺の左手に左手が重なった。
「左利きか」
「気づいていましたか」
「俺の頭を撫でていたのも左手だ」
「日常生活には支障ないんですけどね」
左手が再び俺の頭を撫で始める。
嫌だとは少しも思わない。なぜか……
「怪我が元で国を護る事から身を引いた私ですが、今はこうしてあなたを護る役目を任せられて嬉しいです。ありがとうございます」
指先が髪をすいた。
「あなたを裏切りませんよ、輝夜様」
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