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第46話《Ⅱ章》月輪と太陽⑲
「いけない!」
叫ぶと同時に瑠月がパネルを叩いた。
直後、コックピットにアラームが響く。
「フライト手動モードに切り替えます」
コックピットが揺れる。地鳴りのような振動だ。
目の前が真っ暗になった。爆発と黒煙。
(違う)
砂塵。
砂の柱が空に突き刺さる。
あとわずか、瑠月の判断が遅かったら《クロノス》も砂の噴煙に巻き込まれていた。
ギリギリ手前で《クロノス》が空中停止している。真っ暗で何も見えない。モニターの視界はゼロだ。
「レーダーに切り替える」
刹那、何かを感知した。
(生体?)
砂蟲か。
いや、砂蟲はこの高度まで跳べない。それに次の活動時間までは、まだだいぶある。回復していない筈だ。
(ならば、あの影はなんだ)
「レーダー解析します。……殿下!」
ハッとして瑠月が息を飲んだ。
「砂蟲です」
「馬鹿な。あり得ない」
砂蟲はまだ活動できない。
「死んでいます」
「……えっ」
「砂塵を起こしたのは、砂蟲の死骸です」
「どういうことだっ?」
「モニター復旧しました。映します」
砂蟲が…………
「喰いちぎられている」
牙に引き裂かれて、砂蟲が息絶えている。
バンッ
モニターに拳を叩きつけた。
「どれだけ硬いと思ってるんだ。砂蟲を引き裂ける動物がいるわけない」
「ですが現実です。あの痕は獰猛な猛獣の牙です。砂蟲は死んでいます」
(何が起こっている?)
一体、何が……
「殿下。アマクサに地下坑道はいくつありますか」
「分からない。地下資源を搾取し、空洞化したところに帝国は地下道を張り巡らした。それがどうかしたか」
「一部の地下坑道は実験施設になった。生物実験を繰り返し、生成し、破壊する。そして生き残った人工生物を飼う檻として、地下坑道を利用した。違いますか」
「いや、その通りだ。砂蟲は地中深くの狭い場所を好む。地下坑道はうってつけだな」
「では、砂蟲以外にも生成した人工生物がいるのではないですか」
「そんなっ」
「あなたは人質です。帝国の全容を知らなくても仕方ない」
砂蟲以外の人工生物を俺は知らない。
(しかし、これでは)
砂蟲以外の人工生物の存在を否定する証拠にならない。
「答えはあなたが出さなくていい」
答えは、もうすぐ……
「出ます」
地響きが大気を揺るがした。
「輝夜様、なにをッ」
「通信だ」
嫌な予感が鳥肌になって神経を駆け巡った。
確証はない。
だが確信がある。
(αの勘だ)
「全軍待避!《クロノス》の位置から少しでも距離をとれ」
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