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第49話《Ⅱ章》斜陽②

 この世界に『蛟』などという生物は存在しない。  つまり、遺伝子操作による人工生命体。  真っ黒な空に昇る滝のような、あの生き物は…… 「帝国の生物兵器だ」  シモンも、帝国軍も存在を把握していなかったんだ。恐らく……  生み出したものの、制御不能となり、アマクサの地下深くに遺棄されていた。  それは《クロノス》と状況は変わらない。 (だが、違うのは……)  《クロノス》は機械。  『蛟』は生物。  生物である以上、イレギュラーは起こる。機械以上に予測不明の事態が。 「シモン!」  通信マイクに叫ぶ。 「外に出るな!」  ハッとした瑠月が通信を緊急チャンネルに切り替えた。 「総員退避。建物があれば駆け込め。なるべく奥へだ。避難場所のない部隊は少しでも離れろ。全部隊!」  通信マイクを奪い取る。 「すぐに防毒マスクを着用しなさい」  『蛟』の特性は、毒の息。  巣を荒らされ威嚇する蛟の攻撃は、もう…… (止められない) 「来るぞ!」

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