52 / 78
第52話《Ⅱ章》斜陽⑤
空が低い。
厚い雲の垂れ込めた空に、甲高い悲鳴が轟く。
「蛟はッ」
鱗を貫いた剣を引き抜いたスピードで《クロノス》が全速後退する。
バシィィーンッ
叩き付ける尻尾を辛うじてかわした。
低い空を砂が覆う。
「問題ありません。致命傷を与えました」
すうっと瑠月が目を細めた。
「作戦は成功です」
蛟が砂に潜る。
深追いは必要ない。
だが……
(本当に作戦は成功したのか)
成功したのなら……
「なぜ応答しない!」
バンッ
無線を叩き付けた。
こんなの八つ当たりだ。
八つ当たりだけど。
(俺の戦略は常に100%の成果を出さねばならない)
なのに、なぜ。
「02−XG3は応答しない!」
モニターを凝視する。
通信は繋がっている。
「《クロノス》上空待機します」
「なぜだ。02−XG3に降下しろ」
「危険です」
「何の危険がある。蛟は排除した」
最大の脅威は取り除いたんだ。
「通信が復活しない以上、状態が分かりません。間もなく整備班が到着します。彼らに任せましょう」
「待つ時間が惜しい」
「通信をわざと滞らせている可能性もあります。シモンの罠かも知れません」
帝国軍は俺達が掌握した。
一気に不利に陥ったシモンが企てを起こす可能性はある。
だが。
「あの男は一人では何もできない」
帝国の後ろ盾がなければ……
「もう何もできないでしょう。だから怖いのです!」
鬼気迫る眼光が俺を睨みつけた。
「瑠月……」
それは……
「どういう意味だ?」
ともだちにシェアしよう!