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第54話《Ⅱ章》斜陽⑦

(何を言っているんだ?) 「通信が途絶えただけだぞ」 「シモンが生死の局面に直面して、静かに黙っている事がおかしいでしょう。通信に問題はないのです」 「だからといって。生きていないと結論づけるのは早急だ」 「確証はあります」  すうっと藍色の眼を細めた。 「あの機体の損傷では、コックピットへの蛟の毒の浸潤を防げません」  モニターに映るのは満身創痍のジェネラル・02−XG3だ。  足は折れ、関節はもげて、もう動けない。  砂に埋まった機体の至る所に亀裂が入り、砂の海から脱出できないでいる。 「亀裂は恐らくコックピットまで達しています。脱出ポッドが作動しなくなった時点で、死は免れなかった。毒の気体がコックピットの中を満たしているでしょう」  血の気が引いていく。  心臓の鼓動が痛い。速く速く、速度を増して内側から皮膚を打ち付ける。 「そうだとしても」  ようやく、絞り出した声は擦り切れていた。 「コクピットには防毒マスクが……」 (まさか)  あの機体は、シモンの思いつきで戦場に出た。 「……ない、の……か」 「本来なら非常時に備えて、常備される物です。しかし02−XG3は元々実験機です。実戦を想定していない機体を緊急発進させたのですから」 「だったら、今すぐ救出をッ」 「もう遅い!」  叫びが機内に響いた。 「もう手遅れです。コックピットには毒が充満しています」 「だから早く!早くここを開けろ。お前が動かす気がないなら、俺が行く。コックピットを開けろォォッ!」 「あなたは医者じゃない」  叫びにも似た声が背後から鼓動を突き刺した。 「あなたは軍人でもない。この国に囚われた人質です」 「でもっ」 「ただの人質にすぎないあなたにできる事はありません」 「でも、これはっ」  これは…… 「俺の描いた戦略だ」  戦略だった……  02−XG3を奪うための…… 「事故です」  グッと肩を掴まれた。 「あなたの戦略に蛟の出現はなかった」  引き寄せられて、抱きしめられる。背中から…… 「これは事故なんです」  お前の体温で鼓動が痛い。

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