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第55話《Ⅱ章》斜陽⑧

 キィィーッ  奇声を上げて、甲高い火花が散る。  整備班により02−XG3の装甲が切り開かれていく。  無線から、ジジジィーと羽虫のような微音が聞こえている。  ガシャン  コックピットの装甲が切り落とされた。 「シモン……」  無意識に名を刻んでいた。  整備班の後方には医療班が待機している。だが彼らに動きはない。  整備班も医療班も防毒マスクを着用している。コックピット内に充満した毒に備えているのだ。 『もう遅い』  そう言った瑠月の判断は、恐らく間違っていない。 「輝夜様、モニターを落としましょう」  瑠月が伝えてきたのは、俺を慮っての事だ。  静かに首を振った。 「このままでいい」  整備班が先行して、コックピット内に入った。  何か異変があれば医療班を呼ぶ筈だ。  一秒……  二秒……  秒針が重い。    三秒……  四秒……  こんなに重い数秒を俺は知らない。  何も起こらない。起こる筈がない。 (シモンは、もう……)  カシャン  不意にモニターから走る緊張に、目を見開く。  整備班の兵士が銃を構えた。  まさか!  銃を構える理由は一つしかない。  先行の兵士が後退って、外へ出る。 「撃つな!」  無線に叫んだ。  イヤークリップを右耳に装着する。これで外でも無線が使える。 「瑠月」  眉間に皺を刻んで諦めたのか、瑠月が《クロノス》のコックピットを開いた。  ブワンッ  風がうなった。  風の向こう……  砂と埃と赤土にまみれて、男は立っていた。  斜陽が深い影を落とす。

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