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第57話《Ⅱ章》斜陽⑩

 赤い火が入り江を照らす。  波打ち際まで隆起した山を、落ちていく光が射す。  俺は、皇子という名前の人質で……  春をひさぐ娼夫になった。  アマクサを楼閣と呼び、『傾城の悪魔』と呼ばれるようになったのはいつからだろう。  生きる事に執着していたわけじゃない。  けれど国の都合で死ぬのは御免だ。  ささやかな反抗だったんだ。 (この国で生き続ける事が、俺をこの国に売った自国への……)  なんだろう?  嫌がらせ……かな。  烈の檻に繋がれて、この国の鳥籠に囚われた俺が、褥では自由になれた。  俺を支配する烈の男達の上に乗って、俺が彼らを支配した。  皇子の元にかしずかせた。  そうやって、居場所を作る事で俺は皇子であり続けたんだ。  人質の皇子は、どんな手段を用いても生き続ける……そんな独りよがりの嫌がらせをして。 (だから……)  あの男も、俺の身勝手な嫌がらせに踊らされた一人。 (なんの感情も……)  感傷もない。 「人が壊れていく様を見るのは……」 「楽しいよ」  迷わず言えた言葉が、どうして胸を深く穿つのだろう。  鼓動が、苦しい。

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