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第59話《Ⅱ章》斜陽⑫

 悲劇だと言うだろうか。  それとも、お前はまた事故だと言うのか。  どちらでもない。 (これは、起こるべくして起きた必然だ)  頭の芯は妙に冷めていて、どこからかそんな声が聞こえてきた。  ゆっくり……  まるでスローモーションを見ているかのように、シモンが《ジェネラル》の機体から落ちていく。  両腕を広げたまま。  空を飛べない哀れな羽音を羽ばたかせて、体が地面に失墜する。  たった一発の銃声が命の軸を歪めた。  鮮血が飛んでいる。  男の飛べなかった空へ。 「シモンッ!!」  男が崩れていく。銃弾に心臓を撃ち抜かれて、砂の大地に落ちる。  何を言った?  恨みか、嘆きか、俺への怒りか、憎しみか。  お前を撃った犯人の名前か。  あるいは、自分が撃たれた事も分からず、心臓を止めたのか。  唇が微かに動いた……と、映ったさえも、俺の錯覚だったのか。  何を伝えようとした?  何も伝えずに逝くのか。 「シモンッ!!」 「逝かないでください!!」  強い腕の力が後ろから、俺を抱きしめた。 「行かないでください」  背後から羽交い締めする勢いで、背中に体温が覆い被さる。 「地上何百メートルだと思っているのですか!ここから落ちれば、あなたも間違いなく……」 「瑠月……」  ハッとして我に返った。  俺は《ジェネラル》に乗っているんだ。 「でもっ、シモンが!」 「ひとまず中へ。お願いです」  瑠月は離さない。  俺を抱きしめる腕に強い力を込めている。 「輝夜様、どうか」 「同胞の恨みを思いしれェェーッ!!」  瑠月の声に被さるように、怒声が響いた。  脳裏が鮮やかに冷めていく。  因果応報…… 「やめろッ」  本能が叫んでいた。 「撃つな!」  パンッ

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