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第61話《Ⅱ章》斜陽14
「慣れたくないですよ」
「えっ」
反転した視界に天井が見える。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
押し倒されている……
俺……
「大切な人を失う事に慣れたくなんてありません」
視界に瑠月が差し込んで、そっと髪を掻き分けられた。
(俺の事を言っているのか?)
落ちてくる真摯な眼差しに勘違いしそうになる。
俺は、主だ。
けれど今日会ったばかりの人間をそこまで想う筈ない。
瑠月は過去に、誰か大切な人を失ったのだろうか。
(その人を俺に重ねている?)
少しだけ胸が苦しくて。
でも、失ったその人の代わりになって、瑠月の胸の痛みがちょっとでも和らぐのなら、それでもいい。
そう思うんだ……
(なのにどうして、胸が苦しいんだろう)
理屈で分かっている筈なのに。
「軍人でも、そんなふうに思うんだな」
だから棘のある言葉を言ってしまう。
こんなの伝えたい言葉じゃないのに。
「だから軍人をやめたのかも知れません。怪我を口実に」
あぁ、お前は怪我が元で軍を退役したんだったな。
「怪我がなかったら、軍人を続けていたのか」
「どうでしょう」
腕 に俺の頭を抱 いた。
「守る方法が軍人を続けること以外になければ、軍人でいたかも知れません」
長い指が髪をすいた。
いま、瑠月はどんな表情をしているのだろう。
俺に見せたくないから、こんなふうに俺を抱いているのだろうか。
「我が主、失わずに済む方法が体を繋ぐことならば、今すぐあなたを犯してしまいたいですよ」
瞳に吸い込まれていく。
紺碧の瞳の中。
どうしてお前は俺を求めるのだろう。
俺は、お前になにを与えられるのだろう。
「こんなにも、失うのを怖がるなんて笑っちゃいますね」
小さく微笑んだお前の頬をそっと撫でた。
「繋がってみるか?」
体を一つに……
「あなたは『傾城の悪魔』ですね。本能のままに犯したくなります」
「じゃあ、理性なんて捨てればいい」
俺が悪魔なら、お前はとっくに罪に溺れているのかも知れない。
「それでも、あなたを大切に想っています」
強く強く、厚い胸に抱きしめられる。
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