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第62話《Ⅲ章》うつつの鳥籠①
「瑠月……」
「すみません、起こしてしまいましたか」
「いや、いいんだ」
月明かりに柔らかな声が吹いた。
「わっ」
「失礼しました。髪の毛、くすぐったいですね」
普段結っている赤い髪をほどいて、俺の頬に触れている。
再び結わえようとした瑠月の手を握っていた。
「このままで」
「はい」
「瑠月は俺が嫌いなのか」
……えっ?
と、弾かれたような表情を浮かべた。
「そんなこと、ある筈ありません。あなたは私の主です」
「主としての感情以外はないという事か」
「輝夜様、何か誤解をしています」
振りほどこうとした手を、今度は瑠月にぎゅっと握られた。
「お前は俺を抱かなかったから……」
「もしかして、輝夜様はずっと起きてらしたのですか」
「お前だって起きてただろう。眠った振りをして」
「はい……」
頷いた拍子に紅色の髪が俺の頬にふわりと落ちた。
「バレてたんですね」
『……少しだけ、このままで』
そう言って、俺の肩に額を預けた瑠月はそのまま動かなくなった。
そのまま目を閉じて、両腕で俺を包んでいた。ずっと……
「たぶん……」
息を吐き出すように、そっと……
「特別になりたいんです」
柔らかに声は吹いた。
「あなたに特別に思われたいから……これは私の欲なんです」
長い睫毛を伏せて、額をこつん。
「あなたを大切にしたら、あなたの特別になれるかな……って」
額に瑠月が触れた。
「私の顔、見ないで下さいね。卑怯なαの顔なんて。だけど……」
この気持ちは本当です。
「ここを楼閣と呼び、あなたを男娼にした司令官達とは違います。あなたを欲望のままに傷つけたりなんかしない。ここはもう、あなたを閉じ込める楼閣ではありまん」
「瑠月……」
「あなたが国をつくれば……」
ここは………………
「あなた居場所です」
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