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第64話《Ⅲ章》うつつの鳥籠③
あたたかい……
鼓動がトクトク響いて、少し苦しい。
「触られるのが嫌でなかったら、もう少しこのままで」
ベッドと体の間に腕を滑らせて、引き寄せる。少しだけ汗ばんだ髪を指がかきわけた。
「ありがとうございます」
腕の中で答えない俺を同意だと受け取って、指が髪をすいた。
「傾城の悪魔だなんて、誰が言い出したんでしょうか」
「さぁ」
俺も覚えてない。
「あなたがもし悪魔だったら、こんなに苦しくならないのに」
瑠月が苦しい?
どうして?
「悪魔だったら苦痛も分からぬままに、私を魅了して虜にして奈落に突き落とすのでしょうね」
「どうかな」
「そうですよ、きっと」
けれど……
「あなたは結局、私を魅了してしまった。私は国家と結婚した筈なんですけどね」
それはつまり、瑠月は烈国の宰相で中華大帝国に身を捧げたという事だろうか。
しかし、瑠月の献身は破られた。身を捧げた烈国の裏切りによって。
お前は烈に命を狙われ、消されそうになった。
(どうするんだ?)
俺がつくった国に亡命した、その後は?
烈が再びお前を迎え入れるなら、お前は烈に戻るのか。
お前が烈に戻れば……
(俺達は敵同士だ)
不意にぴたりと温もりが触れた。
大きな掌が頬を包む。
「いかがなさいましたか」
深い藍玉が揺れながら覗き込んでいる。
「何でもない」
今はまだ話したくない。
敵になるかも知れない未来の話は。
(そうなるって決まった訳じゃないから)
でも、もしも……
そうなる未来が待ち受けているのなら。
(いま瑠月を止めれば)
烈に帰るな。
そう伝えれば、望まない未来は回避できるのだろうか。
「るげ……」
トントントンッ
勢いよく扉がノックされたのは、その時だった。
(なぜ、このタイミングで)
扉の向こう側で急いているのが分かる。乱暴なノックだ。
嫌な事が起こっている。
ここは戦場なんだ。
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