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第65話《Ⅲ章》うつつの鳥籠④
トントントンッ
半ば乱暴にドアが叩かれる。
「どうぞ」
応えたのは瑠月だ。
カチャンッ
開いた扉の向こうにいるのは帝国兵だ。
ここまで来たものの、明らかに困惑しているのが見てとれる。
それもそうだろう。
軍はトップを失い、機能が麻痺している。この部屋にいるのは、俺と瑠月。俺は人質で、瑠月は帝国宰相だが軍人ではない。しかも今や、帝国から命を狙われ追われる身だ。
しかし司令官不在のアマクサは、宰相・瑠月に頼らざるを得ない内情であるのも確かだ。
戸惑う兵士に瑠月が声を掛ける。
「どうしましたか」
「はっ」
兵士が跪き敬礼した。
左膝を立てて、右拳を左手で包み相手への敬意を表す帝国流の敬礼だ。
シモンの軍は欧州風に訓練されていた。
(すると、この兵士は生粋の烈国兵か)
敬礼を帝国流に戻したという事は、帝国への愛国心か。
(少なからず、シモンの倒れたこの状態を歓迎しているのか)
真意はどこだ?
「通信が入っております」
「用件は?」
「アマクサ総司令官を出せ、と仰っておられます」
「総司令官は、お休みになっていると伝えて下さい」
「それが、どうしても今すぐに……と」
「まずいですね」
神妙な面持ちで頬杖をついた。
明らかな探りだ。
シモンはもういないのだから。
アマクサの誰もが知っているトップシークレットである。
「どこからですか」
本国からの通信なら、瑠月を出すわけにはいかない。瑠月は帝国に命を狙われている。
「台湾総督府です」
なぜ!
(台湾総督府が本国よりも先に動いた?)
いや、そんなことよりも。
「輝夜様」
瑠月の腕を擦り抜けた。
「俺が行こう」
行かなければならない。台湾総督府であるならば。
「だが、その前に……」
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