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第76話《Ⅲ章》うつつの鳥籠⑨
「ふざけるなッ」
カッと見開いた双眼から怒声が飛んだ。
「あんたが弔う?そんなものが何になる。俺もあいつも望まない!」
「それでも俺がそうしたい!」
一瞬、気圧されたようにサキモリが動きを止めた。 彼の強い瞳に訴える。
「名前を言え」
「いらないッつってんだろ!」
わずか数ミリ。
眼前に銃口が突き付けられる。
「龍族皇子。宰相に俺を撃たせろ。お前達を味方だと思っていないが、システムは利用させてもらうぞ」
トリガーに掛かる指がギギギッと鈍い音を奏でる。
「味方殺しは即射殺が軍規だ。さっさとあいつに俺を撃たせろ。帝国宰相が俺を撃ち殺した瞬間、サキモリが宰相を粛清する。
アマクサ砦の要所にサキモリを配備した」
「お前……」
「クーデターだ」
静かな声だった。
「帝国兵は皆殺しだ」
静かすぎて……
まるで日常会話をしているかの話に聞こえた。
「軍規というシステムを利用させてもらう。サキモリという味方を殺害した帝国に、俺達は報復を行う」
瑠月に自分を撃たせる大義名分がそれか。
「そんな事をしてッ」
「あんたが何を言おうと計画は止まらない。帝国宰相!俺を撃て!撃たなければ、龍族皇子を撃つぞ」
「やめろッ」
「ようやく自分の身可愛さに、本音が出たなァッ。龍族皇子」
「俺を撃てば、瑠月は間違いなくお前を撃つ」
「アァ、そうしろ。そうさせろ。そうすれば……」
「そうなればッ」
強い語気に一瞬だけサキモリが眉間をしかめた。
「あの時死んだサキモリの名前は、永遠に失われるぞ」
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