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第13話 記憶②
昨日は、撮影で足を引っ張ってしまった自分の悔しさもあった。
そのせいで、永人の倍は酒が進んだと思う。
顎に手を置きしばらくボーッとしていると、ふと頭に過った記憶。
「バーで、昨日の撮影の話になったんだ!」
偉いぞ俺、と自分を褒めた。
慣れない表情の撮影で、俺は相当苦労した。
何故、自分には出来ないのか。
何が自分には足りないのか。
自問自答した。
仕事を真面目に取り組んできた俺にとって、今回の撮影は応えた。
大好きなハリウッド俳優が、インタビューで話していた言葉が頭に浮かんだ。
《何事も経験だ 経験なくして得るものなし》
俺には、まだまだ経験が足りなかったことだと思った。
《いい役者とは、自分を犠牲にしてまで“何者か”になりきる事が出来るかどうかだ》
役者としての言葉だったが、アイドルにも類似している。
お客さんをどうやって魅了するか、今回の撮影でも実際に、音弥はカメラマン含め俺らまでも魅了していた。
俺はその、“何者か”になれる日が来るのだろうか。
昨日の撮影から見ても、まだまだ道は遠そうだった。
永人がアドバイスをくれた、“好きな人をカメラに例える”ということ。
永人は、永人なりに考えて仕事に臨んでいた。
自分も見習わなければと思い、その話題になった。
それから、永人が大事な話しがあると言った。
大事な話が、どうしても思い出せない。
永人は大事な話をするために、俺を食事に誘った。
それなのに俺は自分のことで、一杯一杯になっていた。
思い出せ、思い出すんだ。
寝癖が付いている髪を、さらにボサボサになるまで掻きむしった。
「あー、ダメだ!」
申し訳ない気持ちで永人を見た。
気持ち良さそうにスヤスヤ眠っている。
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