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第20話 番宣④
「始めたいと思いますが……桂木くん、大丈夫? ボーッとしているけど」
「え、あ、すみません」
「忙しいからボーッとしちゃったのかな? あはは、人気者は大変だ」
永人と1つの縄で飛ぶことばかりに気を取られすぎて、周りの声が聞こえていなかった。
MCの人が笑いに変えてくれたから救われたものの、ボーッとしているなんて前代未聞だ。
結果を残すと意気込んでいたが、結局は私情を挟んでしまった。
なんとか収録が終わり、沈んだ気持ちで楽屋に戻った。
先に楽屋に戻っていた永人が、ドアの前で俺を待っていた。
「ねぇ、今日のあれは何?」
棘を突き刺すような声、はっきりわかった。
収録中の俺の態度だろう。
黙っていると永人は俺に近づいた。
眉間には皺が寄っていた。
「収録中ボーッとしてるなんて、あり得ないでしょ。あれから目も合わせないし。一体なんなの? プライベートはプライベート、仕事は仕事で分けてくれる? プロとしての自覚が足りないと思われたくないんだよね。俺ら、1人でやってるんじゃないんだよ? グループで活動してんだよ? グループみんながプロ意識が低いと思われたら、どうしてくれるの」
あまりの正論に、俺はただ無言で突っ立つ事しか出来なかった。
いつもニコニコしている永人が、怒りを露わにしている所を初めて見たかもしれない。
それだけ俺の態度が悪かったことを証明する。
「ごめん……自分でもわかってる。きょうは、私情を挟んで仕事をしてしまった。言い訳する気はない。本当にごめんなさい」
永人に頭を下げた。
悪いのは全部俺だ。
永人が言うように、グループでやっている以上、印象を悪くしてしまってはならない。
俺1人で、活動しているわけじゃない。
永人に言われて、改めて思い知らされた。
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